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探巣遅日
たんそうちじつ
作品ID46794
著者佐藤 垢石
文字遣い新字新仮名
底本 「完本 たぬき汁」 つり人ノベルズ、つり人社
1993(平成5)年2月10日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2007-04-24 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 もうそろそろ、もずが巣を営む季節が近づいてきた。私は毎年寒があけて一日ごとに日が長くなってくると、少年のころ小鳥の巣を捜すのに憂き身をやつしたのを思いだしてひとりでほほえむのである。小鳥のうちで巣をつくりはじめるのは、もずが一番早い。もずは営巣をはじめると殆ど啼かない鳥だ。全然啼かないというわけではないが、もずはほかの小鳥の啼きまねをするのが好きであるから、営巣をはじめてから高い杉の木の葉がこんもりと茂ったなかで、雲雀の唄う声をまねているくらいで、あの彼女が持ち前のキキという帛を裂くようなはげしい声はあげないのだ。この沈黙は、春から秋のなかばごろまで続いて、野の枯草に一霜おりる頃になると、枝から枝へ低く飛んで、人をびっくりさせるような声をたて、姿を現わす。その時分、桑の枝に小蛙が突き刺されたまま干からびているのは、あれはもずがやった仕業だ。と私らは村の人から聞かされていた。もずは秋から冬一杯啼き続けていて、春がたち初午の祭りが過ぎると、急に啼きやむのだが、裏の薮に、もずの声を四、五日も聞かないのに気がつくと、私ら少年はもうもずが巣をつくりはじめたな。と合点するのであった。
 今年は、どこへ第一着につくりはじめるかなとそれを捜すのに興味を持ったのだ。学校から帰ってくると、鞄を上がり框へ放り出しておいて、裏の篠や鎮守の林、寺の裏の椿の木などへ走って行って、あっちこっちと捜しまわるのである。
 しかし、もずは巣をつくるのにまことに用心が不足している。人の眼につくところなど、平気で巣をかけはじめる。椿の葉の密生したところと篠薮の密生したところが、だいぶ好きらしい。それに巣の位置が低い。私ら子供の手さえ届くくらいのところへ、平気で巣を営むのだ。
 それからさらに面白いことには、巣には必ず目印をつけて置く。巣をつくり終わると、神社の拝殿か新築の家の屋根の箱棟から、お祓いの白い紙をつみ切ってきて、それを巣に吊るすのである。それは、なんのためにするのであるか人間には分からないが、もずの巣には必ずどれにも、このお祓いの紙がさがっているのをみると、多分これは目印のために吊るすのではないかと思う。だから私ら人間の子がもずの巣を捜すにはこの目印を目標としていくのだ。こんな訳で巣を捜すには大して骨は折れなかったが、もずの子は捕まえてきても育てるのがむずかしい。活き餌でなければ育たないので、捕まえてきた二、三日は蓑虫かなにか捜してきて熱心に餌飼いをするが飽きてくると蓑虫をとりに行くのがいやになって半日も捨てて置くと冷たくなって死んでしまう。
 もずの巣に興味を失うころになると、田圃の空に雲雀が唄いはじめる。大体、もずの営巣は二月の下旬から三月下旬位までであるが、四月に入れば雲雀の時代だ。
 雲雀の一番巣は四月一杯。二番巣は五月一杯。三番巣は六月で、このうち一番巣は大部分雄が孵化するか…

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