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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
作品ID46843
副題63 佐竹の原へ大仏を拵えたはなし
63 さたけのはらへだいぶつをこしらえたはなし
著者高村 光雲
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-03-25 / 2014-09-21
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私の友達に高橋定次郎氏という人がありました。この人は前にも話しました通り高橋鳳雲の息子さんで、その頃は鉄筆で筒を刻って職業としていました。上野広小路の山崎(油屋)の横を湯島の男坂の方へ曲って中ほど(今は黒門町か)に住んでいました。この人が常に私の宅へ遊びに来ている。それから、もう一人田中増次郎という蒔絵師がありました。これは男坂寄りの方に住んでいる。何処となく顔の容子が狐に似ているとかで、こんこんさんと綽名をされた人で、変り者でありましたがこの人も定次郎氏と一緒に朝夕遊びに来ていました。お互いに職業は違いますが、共に仕事には熱心で話もよく合いました。ところで、もう一人、やはり高橋氏の隣りに住んでる人で野見長次という人がありました。これは肥後熊本の人で、店は道具商で、果物の標本を作っていました。枇杷、桃、柿などを張り子で拵え、それに実物そっくりの彩色をしたものでちょっと盛り籠に入れて置き物などにもなる。縁日などに出して相当売れていました。この野見氏の親父さんという人は、元、熊本時代には興業物に手を出して味を知っている人でありましたから、長次氏もそういうことに気もあった。この人も前の両氏と仲善しで一緒に私の宅へ遊びに来て、互いに物を拵える職業でありますから、話も合って研究しあうという風でありました。

 或る日、また、四人が集まっていますと、相変らず仕事場の前をぞろぞろ人が通る。私たちの話は彼の佐竹の原の噂に移っていました。
「佐竹の原も評判だけで、行って見ると、からつまらないね。何も見るものがないじゃありませんか」
「そうですよ。あれじゃしようがない。何か少しこれという見世物が一つ位あってもよさそうですね。何か拵えたらどうでしょう。旨くやれば儲かりますぜ」
「儲ける儲からんはとにかく、人を呼ぶのに、あんなことでは余り智慧がない。何か一つアッといわせるようなものを拵えて見たいもんだね」
「高村さん、何か面白い思い附きはありませんか」
というような話になりました。
「さようさ……これといって面白い思い附きもありませんが、何か一つあってもよさそうですね。原の中へ拵えるものとなると、高値なものではいけないが、といって小っぽけな見てくれのないものでは、なおさらいけない……どうでしょう。一つ大きな大仏さんでも拵えては……」
 笑談半分に私はいい出しました。皆が妙な顔をして私の顔を見ているのは、一体、大仏を拵えてどうするのかという顔附きです。で、私は勢い大仏の趣向を説明して見ねばなりません。
「大きな大仏を拵えるというのは、大仏を作って見物を胎内へ入れる趣向なんです。どのみち何をやるにしても小屋を拵えなくてはならないが、その小屋を大仏の形で拵えて、大仏を招ぎに使うというのが思い附きなんです。大仏の姿が屋根にも囲にもなるが、内側では胎内潜りの仕掛けにして膝の方から登って行く…

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