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![]() あのほしはいつあらわれるか |
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作品ID | 46863 |
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著者 | 岸田 国士 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「岸田國士全集5」 岩波書店 1991(平成3)年1月9日 |
初出 | 「令女界 第十巻第三号」1931(昭和6)年3月1日 |
入力者 | kompass |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2008-04-13 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 11 ページ(500字/頁で計算) |
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一
葉絵子は父の書斎に呼ばれました。
父は生物学者です。今、調べものゝ手を休めて、葉絵子の方に向き直りました。
父 まあ、そこへお坐り。
葉絵子 また、お煙草の煙でいつぱいですわ。
父 窓をあけると寒いからね。少し我慢をおし。
葉絵子 御用つて、なんですの。
父 葉絵子は、今年、幾年になつたんだつけな。
葉絵子 あら、いやだ、そんなこと御存じないの。
父 念のため訊いてみるんだ。返事をおし。
葉絵子 十八ですわ。
父 十八だらう。さうすると、うちのお祖母さんがこのお父さんを生んだ年だ。
葉絵子 知つてますわ。
父 お前は、何時になつたら赤ん坊を生むんだい。
葉絵子 いやなお父様ねえ、お嫁に行かなくつちや、赤ん坊なんか生めやしませんわ。
父 葉絵子は、お嫁に行くときまつてるのかい。
葉絵子 きまつてやしませんけれど……。
父 お嫁に行くとすれば、どういふ人のところへ行きたい?
葉絵子 そんなこと、まだ考へてませんわ。
父 今、考へてごらん。
葉絵子 急に考ろつておつしやつたつて、無理ですわ。
父 無理なもんか。そんなことは、もうそろそろ考へておかなけれやいかん。そんならわしから訊くが、家へ遊びに来る若い男たちのうちで、この人ならと思ふ人があるか。
葉絵子 こつちでばかりさう思つても、しやうがありませんわ。
父 なるほど。では、向うでもさう思つてさうな男がゐるかい?
葉絵子 そんなこと、どうだか知りませんわ。
父 ほんとだね。
葉絵子 ほんとですわ。
父 よし。そんなら、今のうちに云つといてやるが、近頃一番度々やつて来る大隈といふ男ね。
葉絵子 欽一さんのことでせう。
父 あの男は、もうぢきお前に結婚を申込むよ。
葉絵子 ……。
父 どういふ方法で申込むか知らんが、兎に角、今、お前の心を試してゐる最中だ。こつちが少しでも油断をみせたら、すぐにそれに乗じやうと待ちかまへてゐる。こんな風に云ふと、お前にはわからんかも知れんが、お前があんまり馴れ馴れしくすると、それをいゝことにして、向うでもだんだん馴れ馴れしくして来る。そのうちに、あの男の云ふことを、お前はいやだと云へなくなるんだ。いゝかい。そこが大事なとこだ。相手さへ立派な男ならそれやかまはんさ。ところが、あの大隈といふ男は、お父さんの眼鏡ちがひで、性質と云ひ、才能といひ、どうも感服できないところがある。今更、来るなとも云へんが、お前にとつては一番危険な人物だ。お世辞もいゝし、風采も学生らしく小ざつぱりしてゐるし、麻雀やトランプは上手だし、うつかりすると、お前なんか、それだけで、好きになりさうな男だ。ところが、あの男の欠点は、第一に見栄坊といふことだ。することに裏表がある。知らないことでも、知つてゐるやうに見せかける風がある。これは、ある程度ま…