えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

人間再建
にんげんさいけん
作品ID46974
副題――ある病青年の告白――
――あるやまいせいねんのこくはく――
著者北条 民雄
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 北條民雄全集 上巻」 東京創元社
1980(昭和55)年10月20日
入力者Nana ohbe
校正者フクポー
公開 / 更新2017-12-05 / 2017-11-24
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より


 私は彼の告白記を紹介する前に、一応私と彼との関係や、間柄を記して置きたいと思ふ。別段深い理由はないのだが、なんとなくさうして置きたいのだ。ついでに言つておくが、私は時々彼を不快な男だと思つて嫌悪を覚えることもあるが、しかしほんとを言へば私は彼を好いてゐる。と言ふよりも、愛してゐるくらゐだ。
 彼は今年二十四で、身長は先づ五尺一寸くらゐであらうと思ふ。だから大きな男ではない、いや男としては随分ちびな方だ。病気はまあ軽症だと言つていいだらう。もつとも、時々神経痛にやられて臥つてゐることもあるが、それも大してひどいものではない。彼自身では相当重症だと思ひ込んでゐるらしいが、私に言はせれば彼なんかまだまだ癩の入口を覗いてゐるくらゐのものだ。しかし病気に対しては彼は驚くほど敏感で、ちよつとしたことにもすつかり意気銷沈して滅入り込んでしまふ。例へば陽気の工合でほんの少し神経が脹らんだり、読書で眼が充血したりしようものなら、忽ち頭から布団を被つて、われわれが訪ねて行つても口もろくに利かないといふ有様だ。そんな時私は持前の意地悪な気持から、からかつて見たりすると、彼は軽蔑したやうな眼つきで私を眺めながら、…………

思想では決して救はれない。
信じるか信じないか、これだけだ。
我々は凡ゆる権威や信念を疑つて来た。しかし僕は今は信念が欲しいのだ。人間を動かすものは思想でも知識でもない、ただ思想や知識が信念と化した時にのみ力を有つ。



えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko