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とんまの六兵衛
とんまのろくべえ
作品ID46988
著者下村 千秋
文字遣い新字新仮名
底本 「あたまでっかち――下村千秋童話選集――」 茨城県稲敷郡阿見町教育委員会
1997(平成9)年1月31日
初出「赤い鳥」赤い鳥社、1925(大正14)年7月
入力者林幸雄
校正者富田倫生
公開 / 更新2012-03-22 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 昔、ある村に重吉と六兵衛という二人の少年が住んでいました。二人は子供の時分から大の仲よしで、今まで一度だって喧嘩をしたこともなく口論したことさえありませんでした。しかし奇妙なことには、重吉は目から鼻へ抜けるほどの利口者でしたが、六兵衛は反対に何をやらせても、のろまで馬鹿でした。また重吉の家は村一番の大金持ちでしたが、六兵衛の家は村一番の貧乏でした。それでいて二人が兄弟のように仲がいいのですから、村の人々が不思議に思ったのも無理はありません。六兵衛は、その生まれつきの馬鹿のために、仲間からしょっちゅうからかわれて、とんまの六兵衛というあだ名をつけられていました。
「とんまの六兵衛さん、川へ鰹節をつりに行かねえか。」
「お前とお父さんは、どっちがさきに生まれたんだい。」
 こんなことを言われても、六兵衛は怒りもせず、にやにや笑っているばかりでした。それを見ている重吉はつくづく六兵衛がかわいそうになりました。そしてどうしたら六兵衛を利口にして、金持ちにすることが出来るかと、そればかりを考えていました。それで、
「六さんは金持ちになりたくないかい?」と尋ねると、六さんは、
「うん、なりてえよ。」と答えます。
「利口になりたくないかい?」と尋ねると、
「うん、なりてえよ。」と言って、いつものようににやにや笑っています。
 ある日のこと、重吉はなにを思ったか、お父さんが大切にしまって置いた掛け物を、そっと取り出して、台所の片隅にかくしてしまいました。するとお正月が来て、お父さんがその掛け物を床の間へかけようとすると、いつもしまってある場所に見当たりません。お父さんはびっくりして、家中を探し回りましたが、どうしても見つかりません。お父さんは弱ってしまいました。これを見すまして重吉はお父さんの前に行って、
「お父さん、私の友達の六さんはうらないがうまいよ。だから掛け物のある場所をうらなわせてみてごらんよ。」と言いました。
 すると、お父さんは笑いながら、
「なに、とんまの六兵衛がうらなうって? これほどさがしても見つからぬものを、あんな馬鹿にどうしてわかるものかえ。」と言って、まるで取り合ってくれません。
「お父さん違うよ。お父さんはまだ六兵衛さんのえらいことを知らないんだ。六兵衛さんはうらないにかけては日本一なんだよ。」
 あまり重吉がまじめに言い張るので、お父さんもついその気になって、
「じゃ一つうらなわせてみようか。」と言いましたので、とんまの六兵衛は、いよいよお父さんの掛け物のありかをうらなうことになりました。
「あのとんまの六兵衛のうらないが当たったら、あしたからおてんとう様が西から出らあ。」と、村の人々は笑いました。
 使いのものにつれられて六兵衛は、重吉の家にやって来ました。そして座敷のまん中に落ちつきはらって座り、勿体ぶって考えていましたが、やがてぽんとひ…

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