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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
作品ID47005
副題67 帝室技芸員の事
67 ていしつぎげいいんのこと
著者高村 光雲
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-05-02 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 美術学校の教授を拝命したのが三月十二日、奈良京都への出張が同月十九日、拝命早々七日ばかりで旅に出まして、旅から帰ると学校の人となり、私の今日までの私生涯がここで一転化することになったのでありますが、それはそれとして、今日はその翌年の明治二十三年の十月十一日に帝室技芸員を拝命した話をしまして、それから楠公の像を製作した話へ移りましょう。

 この技芸員を拝命したということは、当時の官制にいろいろ新しい制度が出来て、その新しいことにわれわれが打っ附かったのであって、新しい制度がどういう風に出来たかということは一向知りません。私のみならず、他の同時に技芸員を拝命した人々も皆不意であったのでありました。
 十月の十一日に宮内省から御用これあるに付き出頭すべしという差紙が参りました。自分には何んの御用であるか一向当りが附かないが、わるいことではあるまいと思っておりました。しかし何んのことかさらに分らんのでありました。翌日学校へ出ると、石川光明氏もお差紙が参ったということで、
「高村さん、あれは何んでしょう。どういう御用なのでしょう」という話です。私は石川氏に聞いて見ようと思っていたところへ、こう先からいわれたので、やはり石川さんも何んのことだか知らないと見える。氏は我々よりも先へ世の中へ出て交際の範囲も広く、世間的智識も広いのに、今の話で見ると、この事の当りが附かないものと見えるなと思っていると、橋本雅邦先生も食堂へ見えて、
「あなた方のところへもお呼び出しがあったのですか。私の許へもありました。あれはなんでしょう」とやはり同じことをいっている。
 三人は一緒になって、さて何んのことだろうなど話し合いましたが、結局、宮内省で絵画並びに彫刻でもお買い上げになるので、我々にその鑑定をしろと仰せ附けられるのであろう。というような推測に一致しまして、とうとう「それに違いありますまい」と決めてしまいました。
 こういうわけであったから、出頭の当日まで実際何んのことであるか、さらに容子が分らないのであった。
 さて宮内省へ出頭すると、お呼び出しに預かった人々が出頭致しておった。……しかし、それは少数で橋本雅邦先生より、もっと、ずっと年を老った狩野永悳先生という老大家、この人はその頃根岸に住まっていて、八十以上の高齢であったから、出頭するに不自由であったか、代理の人が出ていた。それから、加納夏雄先生、この方も私などから見れば遥かな年長者。それに石川光明氏。私というような顔触れであった(京都の方で鋳金家の秦蔵六氏も当日お呼び出しになるはずであったのであるが、ちょうど数日前に物故されてこの日出頭が出来なかったのであるということを後に到って承りました。その他の方々はちょっと忘れました)。私たちは宮内省の控え室へ集まっていたのでした。
 すると、加納夏雄先生が、
「今日の御呼び出しは何ん…

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