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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
作品ID47041
副題79 その後の弟子の事
79 そのごのでしのこと
著者高村 光雲
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-06-23 / 2014-09-21
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ここで、少し断わって置かねばならぬことは、こういう門弟たちのことは別段興味のある話しというではなく、また事実としても、いわば私事になって、特に何かの参考となることでもありませんから、深く立ち入り、管々しくなることは避けたいと思います。
 それに、最早世を去った人などのことはとにかく、現存の人であって見れば、私と師弟関係があるだけ、毀誉褒貶の如何に関せずおもしろくないと思いますから、批評がましいことは避けます。それに、自分では、今思い出すままを、記憶に任せてお話することで、疎密繁閑取り取りですから、その辺はそのつもりでお聞き下さい。とにかく、私の覚え帳に名前の乗ってるだけの弟子の数も五、六十名に達することで、一わたり、ざっと話して置きましょう。
 今度は山崎朝雲氏が入門された時分のことになります。朝雲氏は私の弟子となる以前に、もはや相当仕事が出来ていた人です。明治二十八年に京都で内国勧業博覧会が開かれた時、私は農商務省の方からは審査員を嘱托され、個人としては彫工会の役員として当会に出張したのでしたが、その時山崎氏の作は出品されていました。氏は福岡県博多の人で、同地よりの出品でした(米原氏も当時は安来に帰郷していて其所から軍鶏の彫刻を出品した)。山崎氏の作は養老の孝子でありましたが、地方からの出品としては、この作と、米原氏の軍鶏とが出色でした(いずれも三等賞を得た)。私は審査員として山崎氏の作を見た時、なかなか傑作であるが、惜しいことには素人離れがしておらぬ。つまり、道具の拵え方が鈍くて、水ばなれがしないので、何んとなく眠たい感がある。これが惜しいと思いました。これは地方の作家のことでやむをえないが、今一応その道の門をくぐったらさらに確かなものになるであろうと思ったことでした。
 やがて、博覧会も終りに近づいた頃、私は彫工会の事務所にまだいましたが、或る日大村西崖氏が見え(氏はその頃京都美術学校に教鞭を取られていたと記憶す)、弟子を一人御丹精を願いたい。その人はこれこれこうこうという話を聞くと、私もその作品はよく知ってかなり認めていた養老の作者ですから、あの人なら、もはや弟子入りをする必要もないかと思う。ただ、道具の鈍いのは難で、素人離れのしないのは欠点といえば欠点だが、事々しく私へ弟子入りするほどの必要もないかと思う。まあ友達のつもりで、聞きたいことがあれば聞きにお出でになれば、知ってるだけはお話もしましょう。実は私も、少し弟子を作り過ぎて持て余しの形の処故、そういう軽い気持でなら、東京へお出での時にお尋ねになってもよろしいと答えましたが、大村氏は、それではきまりが附かぬから是非とおいいで、二度目には当人の山崎氏を伴れて見えられたから、前と同様のことをいって置きました。そして帰京すると、ほどなく山崎氏は道具箱をしょって出掛けて来られ、是非弟子にしてもらいたい…

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