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任侠二刀流
にんきょうにとうりゅう
著者国枝 史郎
文字遣い新字新仮名
底本 「仁侠二刀流(下)」 国枝史郎伝奇文庫、講談社
1976(昭和51)年5月20日
「任侠二刀流(上)」 国枝史郎伝奇文庫、講談社
1976(昭和51)年5月20日
初出「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日
入力者阿和泉拓
校正者酒井裕二
公開 / 更新2019-10-10 / 2019-09-29
長さの目安約 458 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

茜茶屋での不思議な口説

 ここは両国広小路、隅田川に向いた茜茶屋、一人の武士と一人の女、何かヒソヒソ話している。
「悪いことは云わぬ、諾と云いな」
「さあね、どうも気が進まないよ」
「馬鹿な女だ、こんないい話を」
「あんまり話がうますぎるからさ」
「気味でも悪いと云うのかい」
「そうだねえ、その辺だよ」
「案外弱気なお前だな」
「恋にかかっちゃあこんなものさ」
「ふん、馬鹿な、おノロケか」
「悪かったら止すがいいよ」
「いやいや一旦云い出したからには、俺はテコでも動かない」
「妾も理由を聞かなければ、やっぱりテコでも動かないよ」
「いやそいつは云われない」
「では妾も不承知さ」
「そう云わずと諾くがいい。無理の頼みではない筈だ。好きな男を取り持とう。いわばこういう話じゃあないか」
「しかも金までくれるってね」
「うん、旅費として五十両、成功すれば礼をやる」
「だからさ本当におかしいじゃあないか、真面目に聞いちゃあいられないよ」
「真面目に聞きな、嘘は云わぬ」
「そうさ嘘ではなさそうだね、だから一層気味が悪い。……ね、妾は思うのさ、これには底がありそうだね?」
「底もなけりゃあフタもないよ」
「馬鹿なことってありゃあしない」
「ではいよいよ厭なのだな」
「そうだねえ、まず止めよう」
「よし、それでは覚悟がある」
「ホ、ホ、ホ、ホ、どうしようってのさ」
「秘密の一端を明かせたからには、そのままには差し置けぬ!」
「おやおや今度は嚇すのかい」
「嚇しではない、本当に斬る」
「何を云うんだい、伊集院さん、そんな強面に乗るような、お仙だと思っているのかい」
「いや本当に叩っ斬る!」
「恐いわねえ、オオ恐い、ブルブルこんなに顫えているよ」
「ブッ、箆棒、笑っているくせに」
「それはそうと、ねえお前さん、ほんとにあの人木曽へ行くの?」
「うんそうだ、しかも明日」
「で、いつ頃帰るのさ?」

三人三様の旅の者

「で、いつ頃帰るのさ?」
 こう訊いた女の声の中には、危惧と不安とがこもっていた。それを迂濶り見遁がすような、武士は不用意の人間ではない。
「さあいつ頃帰るかな」わざと焦すような口調をもって、
「ふふん、どうやら心配らしいな、教えてやろうか、え、お仙」
「ええどうぞね、お願いします」
「一年の後か二年の後、場合によっては永久帰らぬ」
「アラ本当、困ったわねえ」
「だからよ、おっかけて行くがいい」
「ナーニ、みんな出鱈目だよ、そうさお前さんの云うことはね」
「それもよかろう。そう思っていな、だがしかし明日から、彼奴の姿を見ることは出来まい」
「それじゃやっぱり本当なのね」
「クドい女だ、嘘は云わぬよ」
「それじゃあ妾考えよう」
「何も考えるにも及ぶまい、解った話だ、うんと云いな」
「そうだねえ、うんと云おう」
「おお承知か、それは偉い、それ五十両、旅用の金だ」
「薄…

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