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鼻で鱒を釣つた話(実事)
はなでますをつったはなし(じつじ)
作品ID47138
著者若松 賤子
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二巻」 ほるぷ出版
1977(昭和52)年11月20日
初出「女学雑誌 通巻三四六号」女学雑誌社、1893(明治26)年6月10日
入力者広橋はやみ
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-03-09 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

みなさん、魚はどういふものを食べたがるか、御承知ですか?。蚯蚓に団子………。さ様、それから生の肉類。エー、それに同じ魚で自分より少さいのを食べるものが多いといふことを知つておいでのお児も有ませう。ホラ鯨が鰯をおつかけるといふこともお聞なすつたでせう。それから鮫などの様な大きい魚になり升と、随分人間を呑み兼ねないのですよ。それはさうと、子供の鼻を食べさうにした魚のはなしをお聞になつたことが有升か。有升まいネ、わたくしは聞いたことがあるんですよ。現に其児をよく知つて居て、今でも生きて居る人ですから、其おはなしをしておあげ申ませう。
ある夏此児が両親と避暑に余処へ行つて居升たが、近処に美事な大きい湖水があるので、父は小舟を借りては其児の母と其児を載せ、麗らかなる日や、又月の光澄んだ夜に湖水の上に好い楽みをして居り升た。ある時父は用が出来て一寸家へ帰つた留守に母が武(此児の名)をつれて湖辺を散歩して居升と、武はいつも乗る小舟が岸に繋いで有るのを見て母にせがみ、一処にのつて、母は見覚えの漕手となり、武はチヨコント、舳の方へ座つてニコ/\して居り升た。武は此時、漸やく八才計りの子供のことですから、母は心配して、
コレ、武ちやん、舟の椽へ寄りかゝるのでは有ませんよ、音なしくシヤントして入つしやい。
武は畏こまりて、
ハイ、でもネかあちやん、少ウし顔出して、水ん中の草が見度んだもの、だからソーット少し丈顔出してませうネ、かあちやん、草んなかに、さかながはいつてるだらうか?
エイ、はいつてませうよ、でも舟がいけば驚ろいて余処へ逃げてつてしまひ升だらうよ。
ぢやあ僕見てゝやらうや、逃てく処を、かあちやん、いつかとうさまの入つしやる時、釣に来ようネ。
さうネ、いつか来ても好けど、何にもつれやしまひと思ひ升よ、それに釣をするには針だの餌だのなければなりませんもの、一寸は来られないの。
かあちやん、餌つて何?。
さかなの食べたがる物ですよ、それを針の先へつけて、水の中へ入れて置くと、さかなが来て食ひつく、食ひつく処を引あげるの。
さかなは何が一番好だらう?、
蚯蚓だの、生の肉が、一番好でせうよ。
武は直ぐと、釣つて見たくなり、困つた顔つきして、
かあちやん、今こゝに直とあれば好ネ、
母は、武の妙な顔つきを見て、笑ひながら、
さ様さ、あおいにくさまだつたネ、それとも武ちやんが自分の肉でも切れば有るけどホヽヽヽヽ
武は、一層困つた顔になり、
でも、あのたんと切れば、いたいや、嫌だ/\。
といひながらも、そこらにもしや魚が来て居るかと尚一際湖水の面へ顔をさし出して、頻りに眺めて居り升たが、見える物とては自分の小さなポツチヤリした丸顔の、水に映る処計りでした。併し魚が眼にはいらなかつた武の顔は、却つて魚に見付られ升た。丁度此処へ通り掛つた、ではない泳ぎかゝつた湖水のひれ仲間に名を知られた老成…

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