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慶応義塾新議
けいおうぎじゅくしんぎ
作品ID47150
著者福沢 諭吉
文字遣い新字新仮名
底本 「福沢諭吉教育論集」 岩波文庫、岩波書店
1991(平成3)年3月18日
入力者田中哲郎
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-10-15 / 2014-09-21
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 去年の春、我が慶応義塾を開きしに、有志の輩、四方より集り、数月を出でずして、塾舎百余人の定員すでに満ちて、今年初夏のころよりは、通いに来学せんとする人までも、講堂の狭きゆえをもって断りおれり。よってこのたびはまた、社中申合わせ、汐留奥平侯の屋鋪うちにあきたる長屋を借用し、かりに義塾出張の講堂となし、生徒の人員を限らず、教授の行届くだけ、つとめて初学の人を導かんとするに決せり。日本国中の人、商工農士の差別なく、洋学に志あらん者は来り学ぶべし。
一、入社の式は金三両を払うべし。
一、受教の費は毎月金二分ずつ払うべし。
一、盆と暮と金千匹ずつ納むべし。
ただし金を納むるに、水引のしを用ゆべからず。
一、このたび出張の講堂は、講書教授の場所のみにて、眠食の部屋なし。遠国より来る人は、近所へ旅宿すべし。ずいぶん手軽に滞留すべき宿もあるべし。
一、社中に入らんとする者は、芝新銭座、慶応義塾へ来り、当番の塾長に謀るべし。
一、義塾読書の順序は大略左の如し。
社中に入り、先ず西洋のいろはを覚え、理学初歩か、または文法書を読む。この間、三ヶ月を費す。
三ヶ月終りて、地理書または窮理書一冊を読む。この間、六ヶ月を費す。
六ヶ月終りて、歴史一冊を読む。この間、また、六ヶ月を費す。
 右いずれも素読の教を受く。これにてたいてい洋書を読む味も分り、字引を用い先進の人へ不審を聞けば、めいめい思々の書をも試みに読むべく、むつかしき書の講義を聞きても、ずいぶんその意味を解すべし。まずこれを独学の手始とす。かつまた会読は入社後三、四ヶ月にて始む。これにて大いに読書の力を増すべし。
 右の如く三ヶ月と六ヶ月と、また六ヶ月にて一年三月なり。決してこの間に成学するというにはあらず。もちろん人々の才・不才もあれども、おおよそこれまで中等の人物を経験したるところを記せしものなり。独見もでき、翻訳もでき、教授もでき、次第に学問の上達するにしたがい、次第に学問は六ッかしくなるものにて、真に成学したる者とては、慶応義塾中一人もなし。恐らくば、日本国中にも洋学すでに成れりという人物はあるまじく、ただ深浅の別あるのみ。
一、学費は物価の高下によりて定め難し。されどもまず米の相場を一両に一斗と見込み、この割合にすれば、たとい塾中におるも外に旅宿するも、一ヶ月金六両にて、月俸、月金、結髪、入湯、筆紙の料、洗濯の賃までも払うて不自由なかるべし。ただし飲酒は一大悪事、士君子たる者の禁ずべきものなれば、その入費を用意せざるはもちろんなれども、魚肉を喰らわざれば、人身滋養の趣旨にもとり、生涯の患をのこすことあるゆえ、おりおりは魚類獣肉を用いたきものなり。一ヶ月六両にては、とても肉食の沙汰に及び難し。一年百両ならば十分なるべし。
一、入社の後、学業上達して教授の員に加わるときは、その職分の高下に応じ、塾中の積金をもって多少…

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