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いし
作品ID47156
著者平山 千代子
文字遣い新字旧仮名
底本 「みの 美しいものになら」 四季社
1954(昭和29)年3月30日
入力者鈴木厚司
校正者林幸雄
公開 / 更新2008-03-24 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 私の家に門から玄関まで、ずつと石が敷いてある。
 私は、始めは土をふんで歩いた。その頃からこの石とはお馴染である。何度この石につまづいて、口惜しい思ひをしただらう。
「こんな邪魔な石! どけちやえばいゝのに……」と、けとばして見たことも何度かあつた。
 この憎まれたり、けとばされたりした、沢山の石の中に、私の好きな石が二つある。一つは玄関近くにあつて、少し青味がかつた……丁度、青磁のやうな色をした、大きい石で、そのきれいな色、なめらかなつやが私の心を牽いた。
 もう一つは丁度、門と玄関との中間に位し、割合に四角く、やはり青ツぽい色をしてゐる。
 春はつゝじの花びらをうけ、夏は水引草の小さい花の赤さと調和して、尚更、美しく私の心をとらへた。
 私にはこれらの石が、とてもきれいに見えたのである。毎朝の往復にもこの石だけは、わざ/\よけて通つた。この石の青さを汚すのが惜しい様な気がして、ふむのにしのびなかつたのである。
 夏になると、水まきの時などよくたわし、でこの石をみがいて、その青さに一種の驚きに近い喜びをおぼえた。ジヤンケンとびをする時も、この石だけはふむのが惜しくて、内しよでよけたものである。
 少し大きくなつてからは、この石をとびこした。が、困る事には、玄関に近い石の隣りがやはり二番目に私の好きな石なのである。どつちもふみたくない。
 早く二つとも、跳びこせる様に大きくなりたいと、何度か練習したものだが、今では二つ位はヘイチヤラで、跳ばうと思へば三つでもとべる様になつた。

 かうして、かつては私に可愛いがられたこの石も、今ではちつとも他の石と変らなくなつてゐる。



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