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道理の前で
どうりのまえで
作品ID47213
原題Vor dem Gesetz
著者カフカ フランツ
翻訳者大久保 ゆう
文字遣い新字新仮名
入力者大久保ゆう
校正者
公開 / 更新2007-09-11 / 2020-08-14
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 道理の前でひとりの門番が立っている。
 その門番の方へ、へき地からひとりの男がやってきて、道理の中へ入りたいと言う。
 しかし門番は言う。
 今は入っていいと言えない、と。
 よく考えたのち、その男は尋ねる。
 つまり、あとになれば入ってもかまわないのか、と。
「かもしれん。」
 門番が言う。
「だが今はだめだ。」
 道理への門はいつも開け放たれていて、そのわきに門番が直立している。
 そこで男は身をかがめて、中をのぞいて門の向こうを見ようとした。
 そのことに気づいた門番が笑って、こう言った。
「そんなに気になるのなら、やってみるか。おれは入ってはいかんと言っただけだからな。いいか、おれは強い。だが、おれはいちばん格下の門番にすぎない。部屋を進むごとに、次々と門番が現れるだろう。そいつらは、前のものよりもっと強いぞ。三番目の門番でさえ、おれはそいつを直視することもままならん。」
 これほどの難関を、へき地の男は予想だにしていなかった。
 道理は誰にでもいつでも開かれているはずなのに、と思った。
 だが、男は門番をじっと見つめた。
 門番は毛皮のコートに身を包み、大きなかぎ鼻を持ち、黒く長いモンゴルひげをひょろりと生やしている。
 そのとき男は心に決めた。むしろ、入っていいと言われるまで待つのだ、と。
 門番が男に腰掛けを与え、門のわきへ腰を下ろさせた。
 その場所で、男は幾日も幾年も座り続けた。
 男は、入ってもいいと言われたくて、さまざまなことを試してみた。だが、あまりにもはげしいため、門番をうんざりさせた。
 門番は、幾度となく男に簡単な尋問をおこなった。男の出身地をあれやこれやと問いつめた。
 それ以外のことも同じように訊いたが、その問いかけは目上の人間がする一通りのものにすぎず、いつも終わりに門番は男へこう言うのだった。
 今は入っていいと言えない、と。
 旅のために男はあらかじめたくさんのものを持ってきたが、すべて使ってしまった。だが、どれもずいぶん役に立った。門番に賄賂を贈ったのだ。
 この門番はどれもみな受け取りはしたが、そのときにこう言い添えるのだった。
「一応もらっておく。やり残したことがあるなどと思ってほしくないからな。」
 何年ものあいだ、男はほとんど休みなく、門番から目を離さなかった。
 そのうち男は他にも門番がいることを忘れ、最初のこの門番が、道理へ到るための唯一の障害だというふうに思えてきた。
 男は不幸を嘆いた。はじめの一年はなりふり構わず声を張り上げていたが、年老いてしまうともう、ただいつまでもだらだらとぼやくだけだった。
 子どもっぽくなった男は、門番をずっとつぶさに見てきたからか、なんとその毛皮の襟巻きにノミがいると気づいた。そこで、男はそのノミに、助けてくれ、あの門番を説得してくれ、と頼み込んだ。
 ついには視力も衰…

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