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カキツバタ一家言
カキツバタいっかげん
作品ID47238
著者牧野 富太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「花の名随筆6 六月の花」 作品社
1999(平成11)年5月10日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2008-01-17 / 2014-09-21
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

花がつみまじりにさけるかきつばたたれしめさして衣にするらん   公実
狩人の衣するてふかきつばた花さくときになりぞしにけり      基俊

 カキツバタはだれもよく知っているアヤメ科イリス(Iris)属の一種であって、Iris laevigata Fisch. の学名を有する。シベリア、北支那方面からわが日本に分布せる宿根草で、水辺あるいは湿原に野生し、わが邦では無論かく自生もあれど、通常は多くこれを池畔に栽えてある。
 この草は冬はその葉が枯れて春に旧根から萌出し、夏秋に繁茂する。根茎は横臥し分枝し、葉は跨状式をなして出で、剣状広線形で尖り鮮緑色を呈して平滑である。葉中に緑茎を抽いて直立し一、二葉を互生し、茎頂に二鞘苞ありて苞中に三花を有し、毎日一花ずつ開く。花は美麗な紫色で外側の大きな三片は萼で、それが花弁状を呈し、その間に上に立っている狭い三片が真正の花弁である。萼片の柄の内側に一つの雄蕋があるから、つまり雄蕋は一花に三つあるわけだ。そしてその葯は白色で外方に向かって開裂し花粉を吐くのである。中央に一花柱があって三つに分れ、その枝は萼片の上により添うて葯を覆い、その末端に二裂片があってその外方基部のところに柱頭がある。この花は虫媒花であるから昆虫によって媒助せられ、雄花の花粉を虫が柱頭へ付けてくれる。そして子房は花の下にあっていわゆる下位子房をなし、花後に果実となりついにそれが開裂して種子を放出し、枯れた実は依然として立っている。カキツバタは紫花品がふつうであるが、またシロカキツバタという白花品もあれば、またワシノオと呼ぶ白地へ紫の斑入り品もある。そして本種は同属中で最もゆかしい優雅な風情を持っていて、その点はまったく同属中他品のおよぶところではない。さればこそ昔から歌や俳句などで決してこれを見逃していないのは、尤もなことだと思われる。
 今カキツバタの語原をたずねてみると、これはその根元は「書き付け花」から来たものだといわれる。すなわちそれは国学者荒木田久老の説破するところで、この同氏の説はまったく信憑するに足るものと信ずる、よって今左に同氏の説を紹介するが、これは今からまさに百二十一年前の文政四年に出版となった同氏著の、『槻の落葉信濃漫録』に載っている文章である。

かきつばた

波太波奈の通ふ言につきて因に言 かきつばたといふ花の名は燕の翅る形ちに似たれば翅燕花といふ言ぞと荷田大人のいはれしよし 師の冠辞考に見えたるをめでたき考とおもひをりしに 按ば是は燕子花とある漢字よりおもひよせられしものなり 熟考るに万葉七に墨吉之浅沢小野乃加吉都播多衣爾須里着将衣日不知毛又同巻に かきつばた衣に摺つけますらをの服曾比猟する月は来にけりとありて 上古は今のごとく染汁を製りて衣服を染ることはなくて 榛の実或はすみれかきつばたなどの色よき物を衣に摺り着てあやを…

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