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御存与太話
ごぞんじよたばなし
著者国枝 史郎
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」 作品社
2005(平成17)年9月15日
初出「探偵趣味」1926(大正15)年6月
入力者門田裕志
校正者きゅうり
公開 / 更新2019-04-01 / 2019-04-01
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 新青年の五月号平林初之輔氏の「犠牲者」は、感銘の深い作でした。いろいろの緊急な社会問題が、ずいぶん沢山織り込んであるのが、際立った特色をなして居ります。遂に日本の探偵創作界へも、こういう作が産れたかと、感謝したいような作品です。私はこの作を読んだ時、ガルスウォシイの社会劇を、ふと心へ思い浮かべました。この作を読んだ大方の人は、可成り長い間考えさせられ、憂鬱になるだろうと思われます。
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 小酒井不木氏の創作の中に「迷理的笑い」というようなものが、加味されて来たのは特色です。まさに鋳型から出ようとしている、こう云っても可さそうです。甲賀兄よ、安心して可なり。
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 川田功氏の「或る朝」は、恰度一杯の清涼剤を、飲み干したようなスガスガしいもの、いい気持で読みました。文章に難は無いでしょうか? 併しこの点は私などより、もっと名文家として定評のある、他の誰かが批評すべきでしょう。
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「ホウィッスラアまいる」と「厄払い」牧逸馬氏の短篇で、例に由って絶好のコント、この二作の特色は、利己主義者と利己主義者とが、鉢合わせをした其結果、「笑い」が醸されたという点でしょう。喜劇発生の原因は、随分いろいろありますが、利己主義者同志の鉢合わせなどは、皮肉な喜劇を産むようですね。
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 本田緒生氏の力作に、久しく接しないということは、一体どうしたというのでしょう。「蒔かれし種」というような、ああいう力強い雄篇は、定評ある探偵作家にも、容易なことでは作れますまい。本田氏が怠けて作らないのか、作っても編集者の気に入らないのか? 一寸この点心元無い。
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 森下雨村氏突然来名、風の如くに来たり風の如くに去る。その間わずか一時間半! 私、小酒井氏と眼を見合わせる。「東京の方は素早いですね」「いや其上土佐人です」
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 次は私の思い出話――。
 緒生氏は瀟洒たる好青年、しかし一旦ペンを持つと、随分頸烈な批評をします。遂に私の容貌を、謀反人面に迄出世させました。しかし親愛なる緒生氏よ、これは私の罪ではなくて、私の病気の罪なのです。由来バセドー氏病という奴は、眼球突出、甲状腺膨脹、全身ルイ痩、指頭戦慄、一見すると中風患者に見えます。思い起こす十年の昔、病気にならない其頃のこと、タキシイドを着てホテルへ行ったら、或る優しい未亡人が「すっかり若紳士の典型ですね」こう云って褒めてくれました。唐桟の袷に無地の羽織、道頓堀を歩いていると、親切らしいゆきずりの芸者が「屹度江戸の芸人ですよ」こう云って嘆賞してくれました。尤も婦人に褒められたのは、この二回しかありません。それで覚えているのです。だが短い人生の中で、二度迄婦人に褒められたら、もう本望じゃあありませんか。…

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