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他界の味其他
たかいのみそのた
作品ID47260
著者国枝 史郎
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」 作品社
2005(平成17)年9月15日
初出「猟奇」1930(昭和5)年1月
入力者門田裕志
校正者hitsuji
公開 / 更新2019-09-06 / 2019-08-30
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 マーテルリンクの諸作、わけても「群盲」や「侵入者」や「タンタジールの死」などには、運命的、象徴的、等々々の味があり、それが凝って、他界的の味となっている。そういう味が、あのまわりくどい、ねばねばとした、もって廻わった白廻わしによって読者に逼まってくる。その逼まり方が、何んとなく猟奇小説的であり探偵小説的である。
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 ストリンドベルヒの或る作は、アラン・ポーの影響の下に書かれている、「熱風」「パリア」などは夫れである。そういう作は云う迄も無いが、そういう作で無くても、ストリンドベルヒの作の大方は、他界的の味に充たされている。「死の舞踏」「幽鬼の曲」「ダマスクスへ」等々いずれも然うである。徹底自然主義の代表作だと云われている「ユリエ嬢」「債鬼」などにさえそういう所がある。彼は結局自然主義作家では無かった。そうして彼の作にも猟奇的、探偵的の味が多分にある。
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 ホフマンの作やノバリスの作に、猟奇小説、探偵小説の味のあることは云う迄も無い程である。ホフマンなどは、純然たる探偵小説を作っている。
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 チェスタートンやスチブンソンが純然たる探偵小説にして多量に芸術的である所の多くの作を作っていることは誰でも知って居ることであろう。しかもこの二人の芸術家の夫れらの作が道徳的であり健全であり、教訓的であり、明るくて朗かであることに就いてはまだ誰もが云っていない。
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 ノーベル賞金の受領者、瑞典の女流作家、ラゲルレフの作も多分に猟奇的である。三一致的厳格の構成の下に書かれた彼女の作に、そういう点のあるのは面白い。この作者の、機械的、乃至は幾何学的とでも云い度い程で確な心理描写の中に夫れのあるのは面白い。
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 ピランデルロ、マリネッチ、トルレル、チャペック、ハァゼンクレイフェル、ゲーリング、オニール、カイゼル等々々。
 これ等欧州大戦中、又欧州大戦直後に輩出した諸作家の作は、構成に於てあまりに人工的、心理に於てあまりに尖鋭的であったため現実離れがして居る。だから他界的であるかというに、また然うでも無い。変な存在である。そうしてこの変な存在であるがために認められた。併しこういう作が認められたというその事は「怪奇」では無い。
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 芸術至上主義者であったレニエだのメリメエだのショルツだのワイルドだのの諸作が他界的であり幽鬼的であり猟奇的であるのは何んの不思議でも無い。芸術至上主義なるものが現実廻避主義なのであるから。
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 現実主義的なあまりに現実主義的な作家バーナード・ショーは、オルレアンの少女の幽霊を書いても幽霊とはならずに現代のなまなましい美少女となって現われている。ショーが他界的の味を作中に盛るこ…

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