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探偵文壇鳥瞰
たんていぶんだんちょうかん
著者国枝 史郎
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」 作品社
2005(平成17)年9月15日
初出「新青年」1926(大正15)年12月
入力者門田裕志
校正者hitsuji
公開 / 更新2019-11-30 / 2019-10-28
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 創作探偵小説は本年度に至って活気を呈し、読物文芸的大方の雑誌は競って夫れを載せたようです。「新青年」や「探偵文芸」や、乃至は「探偵趣味」などは、それの専門の雑誌だけに、創作探偵小説を、満載したのは当然としても「苦楽」「現代」「サンデー毎日」「大衆文芸」「講談倶楽部」これらの雑誌が多くの頁を、そのために裂いたということは、可成り目立った傾向でした。さて又一方著書の方から言えば、「創作探偵小説選集」をはじめ、「心理試験」「屋根裏の散歩者」「湖畔亭事件」(以上三篇江戸川氏著)「琥珀のパイプ」(甲賀三郎氏著)が、春陽堂から出版され、「死の接吻」(小酒井不木氏著)「広告人形」(横溝正史氏著)「都会冒険」(牧逸馬氏著)等が、探偵名作叢書として、聚英閣から出版されました。尚奎運社からは松本泰氏の著書「黄色い霧」が出版され、更に大阪方面からは、その種のパンフレットが出版されました。さてどの作家が本年度に於て、最も多く働いたか、又何の作家が本年度に於て、最も佳作を発表したか? というような番附をつくるのは、鳥渡私には悩ましく、欲しないことでもありますから、そういう事は一切抜き、私が眼を通した範囲に於て、作家とそうして作品との、寸感を述べることに致します。数多く作ったという点では、小酒井不木氏かも知れません。従って随分とムラがありました。「恋愛曲線」「肉腫」「印象」「安死術」「愚人の毒」は佳作であり、わけても「恋愛曲線」は、氏の専門の医学的智識と、一味甘い人情とが、渾然融和した傑作として、あらゆる探偵小説愛読者から、讃美された筈でございます。ところでちっとも不思議でない事には、所謂る実験室的作物の味が、多く加味されていればいる程、氏の作はいつも面白く、その味いの薄い時は、面白くない作になって居ります。然るに氏に対して一二の評者が、実験室を出ろ出ろと、忠告めいたことを云って居りますが、私としては反対に、氏よ、もっともっと実験室へ、おこもりなさいと云い度いのであります。甲賀三郎氏もよく働きました。「ニッケルの文鎮」をはじめとし「勝者敗者」「死の技巧」「従兄の死」「古名刺奇譚」というような作は、量に於ても質に於ても、立派な作でありました。併し所謂る惣太物のような、ユーモアを雑えた作品は、まだ試作中の為でもあろうが純化していないという点で、遺憾乍ら私には戴けませんでした。その作風が本格的であり、内容が複雑だという点は、既に以前から定評ある所、改めて云うにも及びますまい。隅から隅まで描こうとする、些かクドイ文章は、一考をわずらわしたいと思います。寡作を以て称されていた、江戸川乱歩氏も後半期に於て相当数多く発表しました。「闇に蠢く」「湖畔亭事件」この二長篇は実の所、全部通読して居りませんので、ここでは寸感をはぶくとし「火星の運河」「踊る一寸法師」「お勢登場」「鏡地獄」等は皆通読致し…

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