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省察
せいさつ |
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作品ID | 4730 |
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副題 | 神の存在、及び人間の霊魂と肉体との区別を論証する、第一哲学についての かみのそんざい、およびにんげんのれいこんとにくたいとのくべつをろんしょうする、だいいちてつがくについての |
原題 | MEDITATIONES DE PRIMA PHILOSOPHIA, IN QUIBUS DEI EXISTENTIA, ET ANIMAE HUMANAE A CORPORE DISTINCTIO, DEMONSTRANTUR. |
著者 | デカルト ルネ Ⓦ |
翻訳者 | 三木 清 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「省察」 岩波文庫、岩波書店 1949(昭和24)年10月20日 |
入力者 | 山下裕嗣 |
校正者 | Juki |
公開 / 更新 | 2016-03-31 / 2015-12-24 |
長さの目安 | 約 165 ページ(500字/頁で計算) |
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神の存在、及び人間の靈魂と肉體との區別を
論證する、第一哲學についての省察
書簡
聖なるパリ神學部の
いとも明識にしていとも高名なる
學部長並びに博士諸賢に
レナトゥス デス カルテス
私をしてこの書物を諸賢に呈するに至らしめました理由は極めて正當なものでありますし、諸賢もまた、私の企ての動機を理解せられました場合、この書物を諸賢の保護のもとにおかれまするに極めて正當な理由を有せられるであらうと確信いたしますので、茲にこの書物を諸賢にいはば推薦いたしまするには、私がそのなかで追求しましたことを簡單に申し述べるにしくはないと考へる次第であります。
私はつねに、神についてと靈魂についてと、この二つの問題は、神學によつてよりもむしろ哲學によつて論證せられねばならぬ諸問題のうち主要なるものであると、思慮いたしました。と申しますのは、われわれ信ある者には、人間の靈魂の肉體と共に滅びざること、また神の存在し給ふことは、信仰によつて信ずることで十分でありますとはいへ、たしかに、信なき者には、先づ彼等にこの二つのことが自然的理性によつて證明せられるのでなければ、いかなる宗教も、また殆どいかなる道徳上の徳すらも説得せられうるとは、思はれないからであります。そしてこの世においてはしばしば徳よりも悖徳に一層大きな報酬が供せられるのでありますから、もし神を畏れず、また來世を期待しないならば、利よりも正を好む者は少數であるでありませう。もとより、神の存在の信ずべきことは、聖書に教へられてゐるところでありますから、まつたく眞でありますし、また逆に聖書の信ずべきことは、これを神から授けられたのでありますから、まつたく眞であります。まことに信仰は神の賜物でありまする故に、餘のことがらを信ぜしめんがために聖寵を垂れ給ふその神はまた、神の存在し給ふことをば我々をして信ぜしめんがために聖寵を垂れ得給ふからであります。とはいへ、これはしかし、信仰なき人々に對しましては、彼等はこれを循環論であると判斷いたすでありませうから、持ち出すことができませぬ。そして實に私は、單に諸賢一同並びに他の神學者たちが神の存在は自然的理性によつて證明せられ得ると確信いたされるといふことのみではなく、また聖書からも、神の認識は、被造物について我々が有する多くの認識よりも更に容易であり、まつたくその認識を有しない人々は咎むべきであるほど容易であることが推論せられるといふことに、氣づきました。これはすなはちソロモンの智慧第十三章の言葉から明かでありまして、そこには、またその故をもつて彼等は宥すべからざるなり、蓋し彼等もしこの世のものを賞で得るほど知り得たりとせば、いかにしてその主なる神を更に容易に見出さざりしぞ、とあるのであります。またロマ書第一章には、彼等、辯解する事を得ず、と言は…