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東の渚
ひがしのなぎさ |
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作品ID | 47406 |
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著者 | 伊藤 野枝 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「定本 伊藤野枝全集 第一巻 創作」 學藝書林 2000(平成12)年3月15日 |
初出 | 「青鞜 第二巻第一一号」1912(大正元)年11月1日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | Juki |
公開 / 更新 | 2013-06-22 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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東の磯の離れ岩、
その褐色の岩の背に、
今日もとまつたケエツブロウよ、
何故にお前はそのやうに
かなしい声してお泣きやる。
お前のつれは何処へ去た
お前の寝床はどこにある――
もう日が暮れるよ――御覧、
あの――あの沖のうすもやを、
何時までお前は其処にゐる。
岩と岩との間の瀬戸の、
あの渦をまく恐ろしい、
その海の面をケエツブロウよ、
いつまでお前はながめてる
あれ――あのたよりなげな泣き声――
海の声まであのやうに
はやくかへれとしかつてゐるに
何時まで其処にゐやる気か
何がかなしいケエツブロウよ、
もう日が暮れる――あれ波が――
私の可愛いゝケエツブロウよ、
お前が去らぬで私もゆかぬ
お前の心は私の心
私も矢張り泣いてゐる、
お前と一しよに此処にゐる。
ねえケエツブロウやいつその事に
死んでおしまひ!その岩の上で――
お前が死ねば私も死ぬよ
どうせ死ぬならケエツブロウよ
かなしお前とあの渦巻へ――
――東の磯の渚にて、一〇、三、――
*ケエツブロウ=海鳥の名。(方言ならん)
[『青鞜』第二巻第一一号・一九一二年一一月号]