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四人の兵隊
よにんのへいたい |
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作品ID | 47674 |
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著者 | 長谷川 時雨 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「随筆 きもの」 実業之日本社 1939(昭和14)年10月20日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2009-02-17 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 6 ページ(500字/頁で計算) |
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出征文人の一員、林芙美子のリユツクサツクのなかへはいつて[#「はいつて」は底本では「はついて」]、わたしの心持も行くといふと奇矯にきこえるが、わたくしの兵隊さん慰問文が、おぶつていつてもらふことになつた。思ひがけない嬉しさなので、どうしてもそのことから書かなければ氣がすまない。
芙美子は電話で優しくいつてくれた。五通ばかりお書きなさい。よい場處へ、畫鋲で貼つて來てあげます。
それをきいた時の感は、迦陵頻伽の聲とは、かうもあらうかと忝けなかつた。含みのある、美しき情に富んだ聲音――きくうちに、わたしの心は、花が開くときもまたかうもあらうかと思ふ、和らぎにみたされた。
――好い娘をもつた。
そんなふうにホク/\した。娘といつてわるければ、優しい姪がいつてくれるやうな、ポタ/\した、滋味のしたたるやうな嬉しさだ。翼の強い若鳥が、木の實をついばんで來てくれるのを、好い氣になつて孝養をうけてゐるやうな有難いものだつた。
あたしは幸福ものだ、おもひまうけない戰地へ、前線へ、慰問の手紙をもつていつてもらへる。そして、それが、多くの兵隊さんの目に觸れるやうにしてもらへる――
あたしの心は嬉しさに濡れてゐる。戰場には、やはり、子とも兄弟とも、甥とも思ふ人たちばかりで一ぱいだ。そこへ、あたしの慰問文が貼つてもらへるのだ。なんと書かうかと、幼兒にかへつたやうに、そればつかり考へてゐる。
幼少のをり、何處か、よいところへ連れて行かれようとすると、傍の者が、おつむ(頭)に乘つて行かうだの、おせなにくつ付いて行かうの、たんも(袂)へはいつて一緒に行かうかな、などといつたことまで思ひ出して、慰問文は、小學生の作文のやうに書きたいと、いそいそしてゐる。
にこにこしてゐる日は、にこにこすることが重なるもので、重い慰問袋をぶらさげて、森茉莉さんがニコニコしながらはいつて來ていふには、
こしらへてゐるうちに、こんなに入れてしまひましたの。なんだか、この袋を貰つた兵隊さん、一番つまらなかないかと、さう思つて詰めてゐるうちに、こんどは、この袋に當つた人、一番幸福なんぢやないかと思つたりして――
と、いみじくもいつて、なごやかに笑つてゐる。茉莉さんは鴎外先生のお孃さんで、小堀杏奴さんの姉さんで、可愛い人だ。文壇女流のみなさんから、「輝ク」へよせられる、皇軍將士への慰問袋が、日に日にうづたかく重なつてゆくのも、なんともいへず嬉しい。
あたくしは今まで、兄弟にも親戚にも、一家から一人の兵士も出してゐないので、肩身がせまかつた。冬の土砂降りの日など、自分は自動車に乘つて、づぶぬれの兵隊の列に行きあつたりするとなんとも濟まなくてしかたがなかつたが、そのあたくしが、自分は生みもしないくせに、四人もの兵隊を、急に甥たちにもつことになつた。
四人の兵隊は、みんな一人づつ、妹弟の子で、三人が…