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十八歳の花嫁
じゅうはっさいのはなよめ
作品ID47836
著者織田 作之助
文字遣い新字新仮名
底本 「定本織田作之助全集 第六巻」 文泉堂出版
1976(昭和51)年4月25日
入力者桃沢まり
校正者小林繁雄
公開 / 更新2009-10-07 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 最近私の友人がたまたま休暇を得て戦地から帰って来た。○日ののちには直ぐまた戦地へ戻らねばならぬ慌しい帰休であった。
 久し振りのわが家へ帰ったとたんに、実は藪から棒の話だがと、ある仲人から見合いの話が持ち込まれた。彼の両親ははじめ躊躇した。婚約をしてもすぐまた戦地へ戻って行かねばならぬからである。しかし、先方はそれを承知だと、仲人に説き伏せられてみると、彼の両親もそしてまた彼も萬更ではなかった。
 早速見合いがおこなわれた。まだ十八になったばかしの、痛痛しいばかりに初々しい清楚な娘さんである。
 その娘さんがお茶を立てるのを見ながら、自分は苦しいばかりの幸福感をのんでいたと、あとで彼は私に語った。話はすぐ纒った。
 しかし、娘さんの両親は、結婚式はこんど晴れて帰還されてからにしたい。それまでは一先ず婚約という形式にしたいと申出た。なんといってもまだ若い、急ぐに及ばないという意見であった。いくらかの不安もあったろうか。
 ところが、すっかりその娘さんが気に入ってしまった彼は、すぐ結婚式を挙げたいと駄々をこねた。娘さんの両親はどうしたものかと迷った。
 しかし、娘さんは迷わなかった。結婚式を帰還するまでのばすのは、何か戦死を慮っているようで、済まないと、両親を説き伏せた。
 二日のちにはもう結婚式が挙げられた。支度もなにもする暇もない慌しい挙式であった。そして、その翌日の夜には彼ははや汽車に乗っていた。再び戦地へ戻って行くためである。十八歳の花嫁はその日から彼に代って彼の老いた両親に仕えるのである。

     ×

 私はこの話をきいて、いたく胸を打たれた。あるいはこの話は軍人援護の美談というべきものではないかも知れない。しかし、いま私は「私の見聞した軍人援護朗話」という文章を求められて、この話を書き送ることにした。この十八歳の娘さんのいじらしいばかりに健気な気持については、註釈めいたものは要らぬだろう。ひとはしばらく眼をつぶって、この娘さんの可憐な顔を想像してくれるがよい。



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