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民主主義
みんしゅしゅぎ |
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作品ID | 47840 |
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著者 | 織田 作之助 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本織田作之助全集 第六巻」 文泉堂出版 1976(昭和51)年4月25日 |
入力者 | 桃沢まり |
校正者 | 小林繁雄 |
公開 / 更新 | 2009-10-13 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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彼は人気者になら誰とでも会いたがった。しかし、人気者は誰も彼に会おうとしなかった。いうまでもなく彼は一介の無名の市井人だった。
野坂参三なら既にして人気者であり、民主主義の本尊だから、誰とでも会うだろう。彼はわざわざ上京して共産党の本部を訪問した。ところが、党員が出て来ていうのには、
「野坂氏は多忙で誰とも会いません。用件は私が伺いましょう」
用件はなかった。すごすご帰る道、仙台に板垣退助の娘がいることを耳にした。板垣退助こそ民主主義である。彼は仙台へ行った。宿につき女中にきくと、
「誰方とでもお会いになります。いえ、誰方にも名刺を下さいます。私もいただきました」
見せて貰うと、洗濯屋の名刺のように大きな名刺で「伯爵勲一等板垣退助五女……」という肩書がれいれいしくはいっていた。
彼はがっかりして会わずに帰った。