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明治哲学界の回顧
めいじてつがくかいのかいこ
作品ID47844
副題04 結論――自分の立場
04 けつろん――じぶんのたちば
著者井上 哲次郎
文字遣い新字新仮名
底本 「現代日本思想大系 24 哲学思想」 筑摩書房
1965(昭和40)年9月20日
初出「岩波講座哲學 明治哲學界の囘顧」岩波書店、1932(昭和7)年11月
入力者岩澤秀紀
校正者小林繁雄
公開 / 更新2008-07-19 / 2014-09-21
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   一 理想主義者として

 つぎに、明治年間における自分の立場について、少しく話してみようと思うのであるが、だいたい自分は理想主義の側に立って絶えず唯物主義、功利主義、機械主義等の主張者とたたかってきたのである。もっとも激しくたたかった相手は加藤弘之博士であった。元良勇次郎は友人ではあったけれど、学説においてはしばしば衝突をきたしたのである。自分は明治十四年のはじめに、大学において「倫理の大本」という題で、倫理に関する見解を発表いたし、ついでそれを一部の書として、『倫理新説』と題し、明治十六年に発行したのである。自分の倫理学上の理想主義はすでにその書に端緒を開いているはずである。自分は明治十三年に大学を卒業したのであるから、卒業後一年を経ない内に「倫理の大本」について自分の見るところを発表した次第である。それから、明治十五年にベイン(Bain)の Mental Science を抄訳して、これを『心理新説』と題して明治十五年に発行した。心理学の書としては西周のヘーヴン(Haven)の『心理学』についで、これが第二番目のものであった。それから明治十六年に、『西洋哲学講義』というのを刊行したのである。これは古代ギリシヤの哲学を講義したもので、だんだん継続して近世哲学に及ぶはずであったけれども、その翌年ドイツに留学することになったために、三冊で終った。ところがその後、有賀長雄が中世哲学を加えたので、五冊になったのである。西洋哲学に関する著書としては、これがわが国においては全く初めのものであった。
 自分は東京大学においてドイツ哲学のほか夙に進化論と仏教哲学の影響を受けたのであるが、進化論者はとかく唯物的方面に傾向する。殊に加藤博士のごときは、よほど極端な唯物論者であった。自分も加藤博士と同じく進化論者ではあったけれど、どうしても唯物主義に走ることはできなかった。それはスペンサーの進化哲学を見ても、劈頭第一に不可知的を説いているということを考えて、スペンサーでさえもけっして徹底的な唯物主義者ではない。それに進化論はただ物質的方面の進化のみをもって満足すべきではない。精神的進化という方面を考えなければならぬ。どうも多くの進化論者は、自然科学的の進化論をもって満足して、とかく物質主義に傾向するけれど、それには自分はあきたらない感じを抱いて、どうしても哲学的方面から見た精神的進化主義をとるでなければ、はなはだ偏した不完全な進化論となるという考えであった。それで流行の唯物主義、機械主義、功利主義等に反対して、絶えず理想主義の側に立ってたたかってきた次第である。

   二 現象即実在論

 哲学の側においてはつとに「現象即実在論」を唱道して、しばしばこれを『哲学雑誌』において論じたのである。実在論の種類は古来いろいろあるけれども、そのようなことはしばらくおいて、本体とし…

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