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遺書
いしょ
作品ID4788
著者原 民喜
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 原民喜全集Ⅲ」 青土社
1978(昭和53)年11月30日
入力者砂場清隆
校正者LUNA CAT
公開 / 更新2002-10-13 / 2014-09-17
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 原守夫氏宛

 遺書
 長い間御世話になりました
 後に思ひ残すことは何もありません
 あまりあてにもなりませんがもし今後私の著書が出版された際にはその印税を時彦に相続させて下さいみなさんによろしく
原民喜

原守夫様



 永井すみ子氏宛

 長い間 御世話にばかりなりました
 貞恵と死別れて六年あまりも生きてまいりました もう後に思ひ残すことは何もありません
 そちらにあづけてある私の夜具衣類を広島から取りに来たら渡してやつて下さい お願ひ致します
 では 御大切に みなさんによろしく
原民喜

永井すみ子様



 佐々木基一氏宛

 ながい間、いろいろ親切にして頂いたことを嬉しく思ひます。僕はいま誰とも、さりげなく別れてゆきたいのです。妻と別れてから後の僕の作品は、その殆どすべてが、それぞれ遺書だつたやうな気がします。
 岸を離れて行く船の甲板から眺めると、陸地は次第に点のやうになつて行きます。僕の文学も、僕の眼には点となり、やがて消えるでせう。
 今迄発表した作品は一まとめにして折カバンの中に入れておきました。もしも万一、僕の選集でも出ることがあれば、山本健吉と二人で編纂して下さい。そして著書の印税は、原時彦に相読[#「読」はママ]させて下さい。
 折カバンと黒いトランク(内味とも)をかたみに受取つて下さい。
 甥(三四郎)が中野打越一三 平田方に居ます。
 では御元気で……。



 丸岡明氏宛

 御世話になりりっぱなし[#「なりりっぱなし」はママ]でお別れするのを心苦しく思ひます 何卒お許し下さい
 借りが左の通りありますから 主婦之友の印税が入つたら それで処理して下さい
  参千円    庄司総一君
  弐千円    能楽書林
 ガリバーの本が出たら 別記の人々に送って頂きたいので お願ひ致します
 それから文芸に行つてゐた僕の小説 そのうち読んでみて下さい 鈴木君からその間の事情を承はりましたが あれは読んで下されば 諒解して頂けることと信じてゐます
 御健筆を祈ります みなさんによろしく
原民喜

 伊藤整、中島健蔵氏にお逢ひの際はとくによろしくお伝へ下さい



 遠藤周作氏宛

 これが最後の手紙です。去年の春はたのしかつたね。では元気で。



 大久保房男氏宛

 大久保君
 あなたにはネクタイをあげます
 あなたはたのしく生きて下さい
 心願の国といふ原稿 群像で不要の際は近代文学へ渡して下さい



 祖田祐子氏宛

 祐子さま
 とうとう僕は雲雀になつて消えて行きます 僕は消えてしまひますが あなたはいつまでも お元気で生きて行つて下さい
 この僕の荒凉とした人生の晩年に あなたのやうな美しい優しいひとと知りあひになれたことは奇蹟のやうでした
 あなたとご一緒にすごした時間はほんとに懐しく清らかな素晴らしい時間でした…

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