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遺訓
いくん
作品ID47885
著者西郷 隆盛
文字遣い旧字旧仮名
底本 「西郷南洲遺訓」 岩波文庫、岩波書店
1939(昭和14)年2月2日
初出「南洲翁遺訓」1890(明治23)年
入力者田中哲郎
校正者川山隆
公開 / 更新2008-05-16 / 2014-09-21
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 廟堂に立ちて大政を爲すは天道を行ふものなれば、些とも私を挾みては濟まぬもの也。いかにも心を公平に操り、正道を蹈み、廣く賢人を選擧し、能く其職に任ふる人を擧げて政柄を執らしむるは、即ち天意也。夫れゆゑ眞に賢人と認る以上は、直に我が職を讓る程ならでは叶はぬものぞ。故に何程國家に勳勞有る共、其職に任へぬ人を官職を以て賞するは善からぬことの第一也。官は其人を選びて之を授け、功有る者には俸祿を以て賞し、之を愛し置くものぞと申さるゝに付、然らば尚書(○書經)仲[#挿絵]之誥に「徳懋んなるは官を懋んにし、功懋んなるは賞を懋んにする」と之れ有り、徳と官と相配し、功と賞と相對するは此の義にて候ひしやと請問せしに、翁欣然として、其通りぞと申されき。
二 賢人百官を總べ、政權一途に歸し、一格の國體定制無ければ、縱令人材を登用し、言路を開き、衆説を容るゝ共、取捨方向無く、事業雜駁にして成功有べからず。昨日出でし命令の、今日忽ち引き易ふると云樣なるも、皆統轄する所一ならずして、施政の方針一定せざるの致す所也。
三 政の大體は、文を興し、武を振ひ、農を勵ますの三つに在り。其他百般の事務は皆此の三つの物を助くるの具也。此の三つの物の中に於て、時に從ひ勢に因り、施行先後の順序は有れど、此の三つの物を後にして他を先にするは更に無し。
四 萬民の上に位する者、己れを愼み、品行を正くし、驕奢を戒め、節儉を勉め、職事に勤勞して人民の標準となり、下民其の勤勞を氣の毒に思ふ樣ならでは、政令は行はれ難し。然るに草創の始に立ちながら、家屋を飾り、衣服を文り、美妾を抱へ、蓄財を謀りなば、維新の功業は遂げられ間敷也。今と成りては、戊辰の義戰も偏へに私を營みたる姿に成り行き、天下に對し戰死者に對して面目無きぞとて、頻りに涙を催されける。
五 或る時「幾ビカ歴テ二辛酸ヲ一志始テ堅シ。丈夫玉碎愧ヅ二甎全ヲ一。一家ノ遺事人知ルヤ否ヤ。不下爲メニ二兒孫ノ一買ハ中美田ヲ上。」との七絶を示されて、若し此の言に違ひなば、西郷は言行反したるとて見限られよと申されける。
六 人材を採用するに、君子小人の辨酷に過ぐる時は却て害を引起すもの也。其故は、開闢以來世上一般十に七八は小人なれば、能く小人の情を察し、其長所を取り之を小職に用ひ、其材藝を盡さしむる也。東湖先生申されしは「小人程才藝有りて用便なれば、用ひざればならぬもの也。去りとて長官に居ゑ重職を授くれば、必ず邦家を覆すものゆゑ、決して上には立てられぬものぞ」と也。
七 事大小と無く、正道を蹈み至誠を推し、一事の詐謀を用ふ可からず。人多くは事の指支ゆる時に臨み、作略を用て一旦其の指支を通せば、跡は時宜次第工夫の出來る樣に思へ共、作略の煩ひ屹度生じ、事必ず敗るゝものぞ。正道を以て之を行へば、目前には迂遠なる樣なれ共、先きに行けば成功は早きもの也。
八 廣く各國の制度を採り開明…

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