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近況
きんきょう |
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作品ID | 47906 |
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著者 | 堀 辰雄 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「堀辰雄作品集第四卷」 筑摩書房 1982(昭和57)年8月30日 |
初出 | 「四季 第四号」1947(昭和22)年4月20日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | 染川隆俊 |
公開 / 更新 | 2013-09-14 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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神西君が僕のことを山のぼりなどしたやうに書いたものだから、みんながもつと身體に氣をつけて、あんまり無茶をしないやうにといつてよこす。この五月の末ごろの或る温かい日、家のものたちと裏の山へ[#挿絵]の芽をとりにいつて、つい氣もちがいいまま、二三時間山で過ごした。――そんなちよつとした山あそびが、いつか僕の山のぼりとなつて友人たちの間に傳はつたわけだ。それが僕のからだに祟つたのでもなからう。わが茅屋の裏にささやかな流れがある。その向うがもうすぐ林で、そこへ薪をとりにゆくのでも、ふだん「山へいつて……」といふぐらゐな土地柄だから、山などといつてもどうぞ恐ろしがらずにゐてほしい。
もう冬に入りかけてゐる。秋の半ばごろから、僕もやや小康を得てゐる。もうすこしぢつと辛抱してゐたら、おひおひ快くなるだらうと思ふ。この頃、菊の花ばかりつづけて、さう三囘ほど、人に貰つた。このへんの農家の籬などにむざうさに咲いてゐる、黄いろい、こまかな花である。これが今年の最後の花だらう。それを枕もとに活けさせて、その下で、僕はなんだか一日中うつらうつらと睡つてゐることがおほい。さうしてときどき目をさましては、ふとその花の香におどろく。
一身憔悴對花眠
むかし讀んだ唐詩のそんな一句が、いまさらのやうに蘇つてきて、胸にしみこむやうな氣がする。