えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
冬
ふゆ |
|
作品ID | 47931 |
---|---|
著者 | リルケ ライネル・マリア Ⓦ |
翻訳者 | 堀 辰雄 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「堀辰雄作品集第五卷」 筑摩書房 1982(昭和57)年9月30日 |
初出 | 「四季 第十四号」1936(昭和11)年3月10日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | 染川隆俊 |
公開 / 更新 | 2010-12-21 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
まだすこしもスポオツの流行らなかつた昔の冬の方が私は好きだ。
人は冬をすこし怖がつてゐた、それほど冬は猛烈で手きびしかつた。
人はわが家に歸るために、いささか勇氣を奮つて、
ベツレヘムの博士のやうに、眞つ白にきらきらしながら、冬を冒して行つたものだ。
さうして私たちの冬の慰めとなつてゐた、すばらしい焚火は、力づよく活氣のある焚火、本當の焚火だつた。
人は書きわづらつた、すつかり指がかじかんでしまつたので。
けれども、助力し合つて、夢みたり、失せやすい思ひ出をすこしでも引きとどめたりすることの、何んといふよろこび……
思ひ出はすぐそばにやつて來て、夏のときよりかずつとよくそれが見られたものだ。……人はそれに彩色までした。
かうして室内ではすべてが繪のやうだつた。
それにひきかへ戸外では、すべてが版畫の趣になつてゐた。
さうして樹々は、自分たちの家で、ランプをつけながら仕事をしてゐた……