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殺意(ストリップショウ)
さつい(ストリップショウ)
作品ID47945
著者三好 十郎
文字遣い新字新仮名
底本 「三好十郎の仕事 別巻」 學藝書林
1968(昭和43)年11月28日
初出「群像」1950(昭和25)年7月号
入力者伊藤時也
校正者伊藤時也、及川 雅
公開 / 更新2009-01-03 / 2014-09-21
長さの目安約 89 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

打楽器だけのダンス曲。

曲が終ると共に幕開く。

舞台は、同時に、高級なナイトクラブのホール正面の、階段のあるステージ。
したがって観客は同時にナイト・クラブの会員や客である。
音楽にのって踊っていたソロ・ダンサアがステージにグッタリと倒れてフィナーレのポーズになる。上半身裸体に、黒い紗の、前を割ったオダリスク風のスカート。紗の黒と、伸びの良いからだの白と、胸当ての銀。

あちこちで拍手。

ダンサア立つ。
その立ちかたが、およそ、そういう場合のダンサアらしいポーズを捨てた、ちょうど走っていてころんだ小学生がヒョックリ起きあがったように。こっちを向いてニッコリして、相手へ向って頭をさげる。

ありがとうございます。
今晩はこのわたくし、緑川美沙が
このステージに立つ最後の夜でございまして
ただ今の踊りが、最後の踊りでございました。
ずいぶん永い間、ここで私は踊った
汗を流したり、涙を流したり
――いろいろの事がございました
それを思うと今踊りながらも
悲しいような、うれしいような
胸がいっぱいになったのでございます。

それにつけても、私のように貧しい者が
とにもかくにも、こうしてつとめて来られましたのは、
会員やお客さま――あなたがたの、
ごひいきのたまものでございまして、
このステージにお別れするにあたりまして、あらためて、
心からのお礼を申しあげます
ありがとうございました。

世の中は広うございます
ひとたび、ここから立ち去ってしまえば
私の姿など世の中と人々の間に呑まれてしまって、
二度と再び、あなたがたの眼には
ふれないかも知れません。
しかし、時には思い出してくださいまし、
このような姿をした(言いながら、白い脚をスッスッと出してタンゴの二三節のステップを踏む)
このような声をした(唄う身ぶり)
緑川美沙という、こんな女がいた事を。

その思い出していただくためと、
なによりも、永い間のごひいきのお礼の印に、
三十分ばかり時間をいただいて、
私一人のショウをつとめさせていただきます。
どうせ、おなぐさみでございます
失礼は前もっておわび申して置きます
あなたの前にはおいしいお酒があります、
あなたの横には美しい友だちがおいでです、
音楽もはじめていただきましょう(右手へ向って手をあげて合図すると、バンドがユックリした曲を奏しはじめる)
わたくしも、失礼いたしまして、
すこしお酒をいただきます。(階段をおりて来て、そこに一組だけ置いてある大理石の小卓に向って椅子にかけ、卓上のリキュールのビンからコップにつぐ)
(そのコップを持ち、コップ越しに、ウインク。花が開くように笑って)
どうぞ、ゆっくりと、お気軽に、
チェリオ!(飲む)

ホントに酒は良いものです
そうではございませんか
雨が降って風が吹いて
自然と人は入れまじり音を立て匂いをはなち、

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