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人狼
じんろう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集」 学研M文庫、学習研究社
2002(平成14)年3月29日
初出「舞台」1931(昭和6)年3月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2009-01-15 / 2014-09-21
長さの目安約 48 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 登場人物
田原弥三郎
弥三郎の妻おいよ
弥三郎の妹お妙
猟師 源五郎
ホルトガルの宣教師 モウロ
モウロの弟子 正吉
村の男 善助
小坊主 昭全
村の娘 おあさ、おつぎ
[#改ページ]

第一幕


          一

 桃山時代の末期、慶長初年の頃。秋も暮れかかる九月なかばの午後。
 九州、肥前国。島原半島に近き山村。田原弥三郎の家。藁葺屋根の二重家体にて、正面の上のかたに仏壇、その下に板戸の押入れあり。つづいて奥へ出入りの古びたる障子。下のかたは折りまわして古びたる壁、低き竹窓。前は竹縁にて、切株の踏み段あり。下のかたの好きところに炉を切りて土瓶をかけ、傍らに粗朶籠などあり。庭には秋草など咲きて、上のかたには大竹薮あり。下のかたには低き丸太の柱を立て、型ばかりの木戸あり。木戸の外には石の井戸ありて、やや赤らみたる柿の大樹あり。うしろは田畑を隔てて高き山々、恰もこの村を圧するが如くに近くみゆ。

(弥三郎の妹お妙、十七八歳。村の娘おあさ、おつぎと共に針仕事の稽古をしている。百姓善助、五十余歳、鍬を持ちて縁に腰をかけている。砧の音きこゆ。)
善助 みんな好く精が出るな。なんと云っても、女は針仕事が大事だ。こう遣って精を出していれば、どこへでも立派にお嫁さんに行かれるぞ。はははははは。
(弥三郎の女房おいよ、二十七八歳、色白くして品よき女、奥の障子をあけて出づ。)
おいよ 善助さん。あさ夕はめっきり冷えて来ましたな。
善助 いくら九州はあたたかいと云っても、九月の声を聞くと秋風が身にしみて来る。どこかで砧を打つ声が聞えたり、この娘たちが冬物を縫っているのを見たりすると、冬がもう眼の前へ押寄せて来たように思われますよ。
おいよ まったく冬はもう眼の前……。(娘等をみかえる。)それでも皆んなが精を出すので、親御さん達は仕合せです。
善助 それもお前が気をつけて、よく仕込んで呉れるからのことで、近所でも皆んな喜んでいます。時に旦那どのは、まだ山から戻られませんかな。
おいよ いつもの通り、朝から出て行きましたが、此頃はちっとも猟がないので、それからそれへと獲物をあさって、あまり深入りをせねばよいがと案じています。
善助 その獲物がないというのも、例の狼めがここらを荒らすせいではないかな。
おあさ ほんに此頃はここらへ悪い狼が出るので、日が暮れると滅多に外へは出られません。
おつぎ あしかけ三月のあいだに、この村中で七人も咬まれたとはまったく怖ろしいことですな。
お妙 兄さんも早くその狼を退治したいと云っていますが、なかなか姿をみせないのでどうすることも出来ないそうです。
善助 今までここらにそんな怖ろしい狼が出るという話は、ついぞ聞いたこともなかったが、山伝いに何処からか悪い狼が入り込んで来たと見える。初めは新仏の墓をあらして、死骸をほり出して喰っていたが、…

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