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頭蓋骨の秘密
ずがいこつのひみつ
作品ID48070
著者小酒井 不木
文字遣い新字新仮名
底本 「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」 論創社
2004(平成16)年7月25日
初出「子供の科学 二巻一〇~一二号」1925(大正14)年10~12月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-09-26 / 2014-09-21
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

山中の骸骨

 実験室の前の庭にある桐の若葉が、ようやく出そろった五月なかばのある朝。塚原俊夫君が「Pのおじさん」と呼ぶ警視庁の小田刑事は、珍しくも私服を着て、私たちの事務室兼実験室を訪ねられました。小田さんは東京に近い△△県の田舎の生まれだそうですが、その村の小田さんの親戚の家に一つの事件が発生したので、俊夫君にその解決を依頼すべく来られたのです。
 今日からちょうど五日前、△△県××村の付近の山奥で、先年関東の大地震の際、山崩れのあったところを、二人の農夫が掘りかえしていると、一本の松の木の根元から、以外にも、十二三の少年の死体があらわれました。死んでからよほど日数がたっていると見えて、単衣に包まれた身体も、学校帽子をそばに置いた頭も、ほとんど骨ばかりで、どこの誰とも分かりませんでした。
 二人の農夫はびっくりして、転ぶように走って、F町の警察署に事の次第を急報しましたので、警察署からは直ちに三人の警官が取り調べのため、現場に駆けつけました。
 掘りだされた死体は紺絣が単衣の筒袖で、黒い兵児帯をまとい、頭の部分には手拭いが巻きついていて、それが後ろの方で結んでありました。頭のそばに落ちていた学校帽子の徽章は、まごう方なく××村の小学校のそれであって、懐にある蟇口の中はからっぽであり、下駄には「草野」という焼印が捺されてありました。
 その山は××村からF町へ行く途中にありますが、死体の発見されたところは平素めったに人が行かぬところだそうです。でも、噂を聞いた村人は、われ先にと集まってきて、程なく死んだ少年は、村の相当の資産家なる草野ふさ方の長男草野富三であると分かりました。ことに母親が来て着物も下駄も何もかも富三のものだと申しましたので、顔はもとより分かりませんでしたが、もはや疑う余地はなくなりました。

 話は大正十二年八月三十日に遡ります。死んだ少年草野富三は、同級(尋常六年生)の少年津田栄吉と、各々、家の金五十円ほどずつを持ちだして行方不明になりました。二人は学校の教師も持てあましたくらいの不良少年でして、今までよく家をあけることもありましたが、こんなに大金を盗みだしたのは稀であるのと、二人がF町の方へ連れ立ってゆくのを見たという者があるのと、富三が東京行の汽車に乗るのを見たという者があったので、両家では、翌日一日じゅう待っていよいよ帰らぬことが分かると、それぞれ使者を出して、九月一日の朝東京の心当たりの先を訪ねさせることにしたのであります。
 すると、あの大地震です。二人の少年を捜しに出た人々も、少年たちも、もろともに焼死したと見えて、そのまま帰ってきませんでしたので、みんな東京の土となったものと思いこんでおりました。
 ところが東京へ行ったはずの富三が、こうして山奥に死んでいるところを見ると、もう一人の少年栄吉もいっしょに山崩れの下敷きになった…

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