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鈴が通る
すずがとおる |
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作品ID | 48123 |
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著者 | 三好 十郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「三好十郎の仕事 第三巻」 學藝書林 1968(昭和43)年9月30日 |
初出 | 「人間」1953(昭和28)年6月号 |
入力者 | 伊藤時也 |
校正者 | 伊藤時也、及川 雅 |
公開 / 更新 | 2009-01-13 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 32 ページ(500字/頁で計算) |
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[#ここから2段組み]
人間
そめ
かつ
かじや
さぶ
農夫
しげ
馬方
仲買
おかみ
娘一
男の子
吏員一
助役
吏員二
農夫
吏員三
吏員四
娘二
青年
女教師
旅の女
[#ここで2段組み終わり]
どこかで鶏がトキを作っている。
かつ (なにかしながら)まったく、因果な事だよう。毎月毎月、二十六日になりさえすりゃ、夜の明けるのも待ちきれないように起き出してよ、こうして、よそ行きの着物着て、――ちょっくら[#「ちょっくら」は底本では「ちよっくら」]、そっち向きな、――まるで、へえ、娘っこが物見に行くみてえによ。よいしょと。さあ帯しめたぞ。(しめた帯のうしろをトンと叩く)はいキンチャク。六十円入れてあっからな、くたびれたらバス乗ってな、甘い物ほしくなったら、アメ玉でも買って食わっせえ。パアパアと人に呉れてやったりしたら、ダメだよ。わかったかよ?
そめ あい。
かつ 鼻紙は持ったなあ! と、これが下駄。(カタリと両方を合せてから、土間におろす)ホントにまあ世話が焼けると云うたら! 行かせねえと五日も六日もボーッとしてなんにも手が附かねえんだから、しかたが無え、行くのも良いけどよ、おらも源次郎も、なんぼ世間に恥かしいか知れないぞ伯母さん。
そめ あい。
かつ ちっ、なんにも聞いちゃいねえ。まあま、しよう無え。あい、ベントウだ。おひるになったらチャンと食べるだよ。
そめ おかつや、あの、鈴取っておくれ。仏壇だ。
かつ 又、鈴か、あれだけは忘れねえだなあ。しょうむ無え……(小走りに畳をふんで仏壇から小鈴の束を取って来る。コロコロという音)……そっちい向くだ。帯の横にこうして、ゆわえ附けて、と……早く帰って来るだよ。又、おそくなっても、今日は一日アゼ豆の植え込みで忙しいから迎えにゃ行かねえからな、あい、むすべた。
そめ そいじゃ、行って来やす。(歩き出す下駄の音と鈴の音)
かつ (その後ろ姿へ)人に何か聞かれたら、鷲山の荒木源次郎の嫁のおかつの伯母ですと、そんだけ云うだ。グジャグジャからかわれても相手になるでねえよ。いいかあ?
そめ (少し離れた所で歩きながら)あいよ。(部屋の中でそれまで眠っていた幼児が眼をさましてグズグズ泣きだす)
かつ 小僧、眼えさましたかよ?(部屋に入り、子供を抱き起す。子供泣きやむ)今日はバサマにお守りはしてもらえねえだから、おっ母あが、タンボに連れて行ってやるからな、おとなしくしろ。そら見ろ、バサマ、トットと行かあ。
コロ、コロ、コロと鈴の音が遠ざかり消える。ゴーゴーゴーとフイゴの音。
金床のうえでチンカン、チンカンと鉄を叩く音。
かじや (フイゴを押しながら)さぶ、鷲山の米八のマングワ、急ぐずら?
さぶ うん、是非今日中に頼むって云ってた。去年の秋でハンパになっていた山の開墾を、この春はどうでもおえるんだからと。
かじや そこにあ…