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夢がたり
ゆめがたり
作品ID48129
原題TO, CHEVO NE BYLO
著者ガールシン フセヴォロド・ミハイロヴィチ
翻訳者神西 清
文字遣い新字新仮名
底本 「あかい花 他四篇」 岩波版ほるぷ図書館文庫、岩波書店
1975(昭和50)年9月1日
入力者蒋龍
校正者染川隆俊
公開 / 更新2009-03-29 / 2014-09-21
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 六月のある素晴らしい日のこと――ただし素晴らしいと月並みなお断りをしたのは、列氏で二十八度という温度だったからですが――その素晴らしい六月のある午後のこと、どこもかしこもきびしい暑さでした。なかでもつい四五日まえに刈り入れの済んだ乾草が、禾堆をなして並んでいる庭の草場は、またひとしおの暑さでありました。というのはその場所が、茂りに茂った桜畑で、風上をさえぎられていたからなのです。生きとし生けるものは、たいてい寝入っておりました。人間どもはどっさり御飯をつめ込んで、昼寝の夢をむさぼっていましたし、小鳥も鳴りをひそめていますし、昆虫たちもたいていは日ざしを避けて、どこかへもぐり込んでいたほどでした。家畜のことは申すまでもありません。大きな家畜も小さな家畜も、みんな軒下にかくれておりました。犬はどうかと言いますと、穀倉の下に穴を掘って、その中に寝そべって、半ば眼を閉じたまんま、一尺あまりもありそうな桃色の舌を吐きだして、しきりにハアハアいっておりました。ときどき犬は、このうだるような暑気のもよおす物憂さにたえかねてでありましょう、のどの奥からキューンと妙な音が出るほどの、大きなあくびをするのでありました。豚はどうかといいますと、お母さんが総勢すぐって十三匹の子豚を引きつれて、小川の岸へおりて行って、ぶくぶくした黒い泥んこの中にうずくまってしまいましたので、泥の中から見えるものといったら、ブウブウグウグウ鳴っている小さな穴が二つずつあいている豚の鼻づらと、泥んこになった細長い背中と、それにたれ下がっているみっともないほど大きな耳だけでありました。ただ鶏だけは、暑さにもめげずに、台所の登り口の下のからからにかわいた地面を、しきりにあしでほじくりながら、どうにか時間つぶしをしていましたけれど、そこにはもう鶏たちも先刻ご承知のとおり、穀粒ひとつだって残ってはいないのです。とは知りながらも、雄鶏はときどき何か癪にさわることがあると見えます。その証拠には、雄鶏はときどき間の抜けた様子をして、のどもさけよと叫び立てるのでした、――『結構ドコロジャアリャシナーイ[#挿絵]』
 おや、いつの間にか私たちは、あの一ばん暑さのきびしい草場を離れて遠くへ来てしまいましたが、実はその草場には、昼寝もせずにいるお歴々が、車座になってすわっていたのでした。といってもみんながみんなすわっていたわけではありません。たとえば年寄りの栗毛などは、馭者のアントンのむちを横っ腹へ食らいはしまいかとたえずびくびくしながら、乾草の山をかき分けているのですが、これは馬のことですから、もともとすわるなんて芸当はできないのです。またゆくゆくは何かの蝶になる毛虫も、やはりすわっているのではなく、まあ腹んばいになっている方でした。でも言葉の穿鑿なんぞはどうでもよろしい。とにかく桜の木陰に、小人数ではありますが、たいへ…

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