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遺教
いきょう
作品ID48130
著者西郷 隆盛
文字遣い旧字旧仮名
底本 「西郷南洲遺訓」 岩波文庫、岩波書店
1939(昭和14)年2月2日
入力者田中哲郎
校正者川山隆
公開 / 更新2008-05-16 / 2014-09-21
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     死生の説

孟子曰ク。殀壽不レ貳。修メテレ身ヲ以俟ツレ之ヲ。所二以立ツル一レ命ヲ也。(盡心上)
殀壽は命の短きと、命の長きと云ふことなり。是が學者工夫上の肝要なる處。生死の間落着出來ずしては、天性と云ふこと相分らず。生きてあるもの、一度は是非死なでは叶はず、とりわけ合點の出來さうなものなれども、凡そ人、生を惜み死を惡む、是皆思慮分別を離れぬからのことなり。故に慾心と云ふもの仰山起り來て、天理と云ふことを覺ることなし。天理と云ふことが慥に譯つたらば、壽殀何ぞ念とすることあらんや。只今生れたりと云ふことを知て來たものでないから、いつ死ぬと云ふことを知らう樣がない、それぢやに因つて生と死と云ふ譯がないぞ。さすれば生きてあるものでないから、思慮分別に渉ることがない。そこで生死の二つあるものでないと合點の心が疑はぬと云ふものなり。この合點が出來れば、これが天理の在り處にて、爲すことも言ふことも一つとして天理にはづることはなし。一身が直ぐに天理になりきるなれば、是が身修ると云ふものなり。そこで死ぬと云ふことがない故、天命の儘にして、天より授かりしまゝで復すのぢや、少しもかはることがない。ちやうど、天と人と一體と云ふものにて、天命を全うし終へたと云ふ譯なればなり。
(按)右は文久二年冬、沖永良部島牢居中、孟子の一節を講じて島人操坦勁に與へたるものにて、今尚ほ同家に藏す。

     一家親睦の箴

翁、遠島中、常に村童を集め、讀書を教へ、或は問を設けて訓育する所あり。一日問をかけて曰ふ、「汝等一家睦まじく暮らす方法は如何にせば宜しと思ふか」と。群童對へに苦しむ。其中尤も年長けたる者に操坦勁と云ふものあり。年十六なりき。進んで答ふらく、「其の方法は五倫五常の道を守るに在ります」と。翁は頭を振つて曰ふ、否々、そは金看板なり、表面の飾りに過ぎずと。因つて、左の訓言を綴りて與へられたりと。
此の説き樣は、只當り前の看板のみにて、今日の用に益なく、怠惰に落ち易し。早速手を下すには、慾を離るゝ處第一なり。一つの美味あれば、一家擧げて共にし、衣服を製るにも、必ず善きものは年長者に讓り、自分勝手を構へず、互に誠を盡すべし。只慾の一字より、親戚の親も離るゝものなれば、根據する處を絶つが專要なり。さすれば慈愛自然に離れぬなり。

     書物の蠧と活學問

明治二年、翁は青年五人を選び、京都の陽明學者春日潜庵の門に遊學せしむ。五人とは伊瀬知好成(後の陸軍中將)、吉田清一(同上)、西郷小兵衞(翁の弟)、和田正苗、安藤直五郎なり。其時翁は吉田に告げて曰ふ。
貴樣等は書物の蠧に成つてはならぬぞ。春日は至つて直な人で、從つて平生も嚴な人である。貴樣等修業に丁度宜しい。
と、又伊瀬知に告げて曰ふ。
此からは、武術許りでは行けぬ、學問が必要だ。學問は活きた學問でなくてはならぬ。其れには京都に…

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