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南洲手抄言志録
なんしゅうしゅしょうげんしろく |
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作品ID | 48284 |
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副題 | 03 南洲手抄言志録 03 なんしゅうしゅしょうげんしろく |
著者 | 秋月 種樹 Ⓦ / 佐藤 一斎 Ⓦ |
翻訳者 | 山田 済斎 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「西郷南洲遺訓」 岩波文庫、岩波書店 1939(昭和14)年2月2日 |
初出 | 「南洲手抄言志録」博文社、1888(明治21)年5月17日 |
入力者 | 田中哲郎 |
校正者 | 川山隆 |
公開 / 更新 | 2008-08-12 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 36 ページ(500字/頁で計算) |
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一 勿下認二游惰一以爲中寛裕上。勿下認二嚴刻一以爲中直諒上。勿下認二私欲一以爲中志願上。
〔譯〕游惰を認めて以て寛裕と爲すこと勿れ。嚴刻を認めて以て直諒と爲すこと勿れ。私欲を認めて以て志願と爲すこと勿れ。
二 毀譽得喪、眞是人生之雲霧、使二人昏迷一。一二掃此雲霧一、則天青日白。
〔譯〕毀譽得喪は、眞に是れ人生の雲霧、人をして昏迷せしむ。此の雲霧を一掃せば、則ち天青く日白し。
〔評〕徳川慶喜公は勤王の臣たり。幕吏の要する所となりて朝敵となる。猶南洲勤王の臣として終りを克くせざるごとし。公は罪を宥し位に敍せらる、南洲は永く反賊の名を蒙る、悲しいかな。(原漢文、下同)
三 唐虞之治、只是情一字。極而言レ之、萬物一體、不レ外二於情之推一。
〔譯〕唐虞の治は只是れ情の一字なり。極めて之を言へば、萬物一體も情の推に外ならず。
〔評〕南洲、官軍を帥ゐて京師を發す。婢あり別れを惜みて伏水に至る。兵士環つて之を視る。南洲輿中より之を招き、其背を拊つて曰ふ、好在なれと、金を懷中より出して之に與へ、旁ら人なき若し。兵士太だ其の情を匿さざるに服す。幕府砲臺を神奈川に築き、外人の來り觀るを許さず、木戸公役徒に雜り、自ら畚を荷うて之を觀る。茶店の老嫗あり、公の常人に非ざるを知り、善く之を遇す。公志を得るに及んで、厚く之に報ゆ。皆情の推なり。
四 凡作レ事、須レ要レ有二事レ天之心一。不レ要レ有二示レ人之念一。
〔譯〕凡そ事を作すには、須らく天に事ふるの心あるを要すべし。人に示すの念あるを要せず。
五 憤一字、是進學機關。舜何人也、予何人也、方是憤。
〔譯〕憤の一字、是れ進學の機關なり。舜何人ぞや、予何人ぞや、方に是れ憤。
六 著レ眼高、則見レ理不レ岐。
〔譯〕眼を著くること高ければ、則ち理を見ること岐せず。
〔評〕三條公は西三條、東久世諸公と長門に走る、之を七卿脱走と謂ふ。幕府之を宰府に竄す。既にして七卿が勤王の士を募り國家を亂さんと欲するを憂へ、浪華に幽するの議あり。南洲等力めて之を拒ぎ、事終に熄む。南洲人に語つて曰ふ、七卿中他日關白に任ぜらるゝ者は、必三條公ならんと、果して然りき。
七 性同而質異。質異、教之所二由設一也。性同、教之所二由立一也。
〔譯〕性は同じうして而て質は異る。質異るは教の由つて設けらるゝ所なり。性同じきは教の由つて立つ所なり。
八 喪レ己斯喪レ人。喪レ人斯喪レ物。
〔譯〕己を喪へば斯に人を喪ふ。人を喪へば斯に物を喪ふ。
九 士貴二獨立自信一矣。依レ熱附レ炎之念、不レ可レ起。
〔譯〕士は獨立自信を貴ぶ。熱に依り炎に附くの念、起す可らず。
〔評〕慶應三年九月、山内容堂公は寺村左膳、後藤象次郎を以て使となし、書を幕府に呈す。曰ふ、中古以還、政刑武門に出づ。洋人來航するに及んで、物議紛々、東攻西撃して、内訌嘗て[#挿絵]る時なく、終に外國の輕侮を招くに至…