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![]() ごちゅうにっき |
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作品ID | 48313 |
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副題 | 05 (五) 05 (ご) |
著者 | 種田 山頭火 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「山頭火全集 第五巻」 春陽堂書店 1986(昭和61)年11月30日 |
入力者 | 小林繁雄 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2009-03-14 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 40 ページ(500字/頁で計算) |
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┌─────────────────────────┐
│おかげさまで、五十代四度目の、 │
│其中庵二度目の春をむかへること │
│ができました。 山頭火拝│
│ 天地人様 │
└─────────────────────────┘
二月四日
明けてうらゝかだつたが、また曇つて雪がふりだした。
身心不調、さびしいとも思ひ、やりきれないとも感じたが、しかし、私は飛躍した、昨夜の節分を限界として私はたしかに、年越しをしたのである。
朝、冷飯の残りを食べたゞけで、水を飲んで読書した、しづかな、おちついた一日一夜だつた。
第三句集『山行水行』に[#挿絵]入する語句二章
(庵中閑打坐) (一鉢千家飯)
山があれば山を観る 村から村へ
雨のふる日は雨を聴く 家から家へ
春夏秋冬 一握の米をいたゞき
受用して尽きることがない いたゞくほどに
鉢の子はいつぱいになつた
二月五日
天も私も憂欝だ、それは自然人生の本然だから詮方がない、水ばかり飲んでゐても仕方がないから、馴染の酒屋へ行つて、掛で一杯ひつかけた、そしてさらに馴染の飲食店から稲荷鮨とうどんとを借りて戻つた。
湯札が一枚あつたので、久振に入浴、憂欝と焦燥とを洗ひ落してさつぱりした。
幸福な昼寝。
やつぱり、句と酒だ、そのほかには、私には、何物もない。
大根、ほうれん草、新菊を採る、手入をする、肥をやる。
私の肉体は殆んど不死身に近い(寒さには極めて弱いけれど)、ねがはくは、心が不動心となれ。
米桶に米があり、炭籠に炭があるといふことは、どんなに有難いことであるか、米のない日、炭のない夜を体験しない人には、とうてい解るまい。
徹夜読書、教へられる事が多かつた。
・椿の落ちる水の流れる
・みそさゞいよそこまできたかひとりでなくか
・梅がもう春ちかい花となつてゐる
・轍ふかく山の中から売りに出る
・枯枝をひらふことの、おもふことのなし
そこら一めぐりする椿にめじろはきてゐる
ふるさとなれば低空飛行の爆音で
二月六日
くもり、何か落ちてきさうだ。
うれしいたよりがあつた。
やうやく句集壱部代入手、さつそく米を買ふ、一杯ひつかける、煙草を買ふ。……
四日ぶりに御飯を炊く、四日ぶりにぬく飯をたべる、あたゝかい飯のうまさが今更のやうに身にしみる。
酒もやつぱりうまい、足りないだけそれだけうまい。
山を歩く、あてもなく歩くのがほんたうに歩くのだ、枯木も拾ふたが句も拾ふた。
味ふ、楽しむ、遊ぶ――それが人生といふものだらう、それ自体のために、それ自体になる――それがあそ…