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日記
にっき |
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作品ID | 4833 |
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副題 | 11 一九二五年(大正十四年) 11 せんきゅうひゃくにじゅうごねん(たいしょうじゅうよねん) |
著者 | 宮本 百合子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「宮本百合子全集 第二十四巻」 新日本出版社 1980(昭和55)年7月20日 |
入力者 | 柴田卓治 |
校正者 | 青空文庫(校正支援) |
公開 / 更新 | 2014-08-10 / 2015-08-27 |
長さの目安 | 約 73 ページ(500字/頁で計算) |
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一月五日(月曜)
山岡にかえって来る。
一月十九日(月曜)
久しぶりにて、金子茂、河崎なつ、石本、新妻氏等と一緒に偕楽園で食事をし、かえりに林町にゆく。
一月三十日(金曜)
夥しき降雪。
祖母上[#中條運]のメモリーとして短いものを書き始む、『新小説』に送るつもり。
一月三十一日(土曜)
晴、この日記を買って来てつけることにする。
かなりとびとびにはなるがやはり書くものがないと淋しい。
二月七日(土曜)
「祖母のために」を終る。斎藤龍太郎氏あてに送る。
二月九日(月曜)
母と市村座。
この前の月、吉・菊[#中村吉右衛門、尾上菊五郎]連合のをYと二人で見たので、同じ場所のため或感情あり。彼女もさそって来たかった。
菊五郎相変らずうまし。かえってから、母上と、菊、吉、の芸風について話がはずんだ。
二月十三日(金曜)
今日は自分の誕生日であった。起き、二人でロシア語を勉強してから、Y、私へのおくりものを買いにと出かけてゆく。八時頃、千疋やの大きな紙包を下げて戻った。一目見、片方のは花と判ったがもう一方の大きな四角は何だか判らず、二階であけて見たら、桜文鳥の番が出た。思いがけず、鳥とは思いがけず! 近所から一寸した料理をとり夕飯をおそくたべた。食後、楽しく喋り、いろいろして居るうちに、三時すぎ。眠ったのは四時頃であったろう。楽しい平和な一日であった。自分の誕生日をこの位しんから愉快に晴々と送ったことがこれ迄一度でもあっただろうか、という事を頻りに考えた。面白い。今日は西洋人のいやがる十三日 Friday だ。それでも自分にはこんなによい日。
〔欄外に〕「イスカリオテのユダ」。
二月十五日(日曜)
ロランジの音楽会だかティケットをきのう山岡にかえした手紙に入れてやってしまったし、Yは行かないというのでやめにし、起きるとすぐ倉知にことわらせる。『日日』の広告で原町に家があるというのを知り二人で出かける。随分歩いたが、思わしい家でなく、Y、東中野に人見氏を訪ねるという。もう一軒大塚坂下町九〇にある家を念のため見ようと出かけ案外よいので、それにきめる。引越しをして居るところで入っては見られなかったが、六・六・四・二という間どり。六と六との間が壁だというので大変によろし。湯殿をつけて四十八円位。家賃も手張らず。前に高師[#東京高等師範学校]の果樹園があり狭い通りだが郊外的だ。山岡にかえり、久しぶりで入浴、本を片よせてやすむ。
〔欄外に〕
アンドレーエフの「イスカリオテのユダ」。訳のわるい故か、アンドレーエフの作として、あの独特の簡明さ、クリアー・カットを感じられず。ユダの性格の見かた、焦点はよいが、もう一歩どこか物足りず。ビブリカル・テーマはあのような作家にとっても困難なものと思われる。
二月十六日(月曜)
仕事の下ごしらえをやって居…