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鸚鵡
おうむ
作品ID48376
副題(フランス)
(フランス)
著者福士 幸次郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「思い出の名作絵本 岡本帰一」 河出書房新社
2001(平成13)年8月30日
初出「コドモノクニ」1928(昭和3)年10月号
入力者川山隆
校正者土屋隆
公開 / 更新2008-09-17 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




    *

フランス中部の或る都市の
とあるお家の鳥籠に、

たつた一と言口眞似の
出來る鸚鵡が飼はれてた。

出來るといふのは他でもない、
誰れかゞ籠に近寄ると、

すましかへつて大風に、
叱つていふのは次ぎのこと――

[#挿絵]誰れだ、そこにゐるのは?
  誰れだ…?[#挿絵]

  *

ところで或る日籠の扉を
うつかり女中が開けたとき

得たりと鸚鵡は逃げ出して
早速庭の木にとまる。

呼んでも籠へは歸らない、
傍まで行くと例の聲

[#挿絵]誰れだ、そこにゐるのは?
  誰れだ?…[#挿絵]

    *

それから森へ飛んでゆき、
櫻實なぞ啄ついた。

森は胡桃が花盛り、
莓は藪に熟れてゐる。

天氣はよいし、人はゐず、
鸚鵡は愉快でたまらない。

    *

さてこゝに一人の百姓さん、
鐵砲かりて獵に出て、

森を朝からさまよつて
見つけたものはこの鸚鵡。

『ホウ!』と思はず喜んで、
銃とりあげて忍び足、

獲物目がけて近よつて、
銃のねらひをつけかける。

すると鸚鵡は氣がついて
例の言葉を云ひ出した

[#挿絵]誰れだ、そこにゐるのは?
  誰れだ?…[#挿絵]

    *

呆つ氣にとられて百姓は、
聲する方を見まもつた。

この百姓はその日まで
鸚鵡といふもの知らなんだ

こんなに上手にものをいふ
鳥に出あつた試しなし

[#挿絵]誰れだ、そこにゐるのは?
  誰れだ?…[#挿絵]

    *

そこで段々怖くなり、
鐵砲は手からずりおとし、

帽子をとつて丁寧に
お辭儀したあと言ふことは、

『いや御免ください、わたくしは
貴方を鳥だと思ひました。』

そして鐵砲をひろひあげ
もと來た路へと逃げ出した。

鸚鵡はこれで大得意、
一日森をば飛びまはる。
(了)



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