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魔法の笛
まほうのふえ |
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作品ID | 48417 |
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原題 | THE PIED PIPER OF HAMELIN |
著者 | ブラウニング ロバート Ⓦ |
翻訳者 | 楠山 正雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「世界童話集 思ひ出の國」 東西社 1947(昭和22)年6月10日 |
入力者 | 京都大学電子テクスト研究会入力班 |
校正者 | 京都大学電子テクスト研究会校正班 |
公開 / 更新 | 2009-10-15 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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ウェーゼル河の 南の岸の、
静かで気らくな ハメリン町に、
いつの頃やら ねずみがふえて、
そこでもチュウチュ ここでもチュウチュ、
ねずみのお宿は こちらでござる。
猫にゃかみつく 赤んぼはかじる、
犬とけんかも するあばれかた。
帽子にゃ巣をくう 着物はやぶる、
奥さん方の おしゃべりさえも、
きいきいごえで けされる始末。
町の人たち あきれてしまい、
よるとさわると ねずみのうわさ、
あげくの果が ためいきばかり。
これではならぬと 皆おしかける。
町の役場は たいしたさわぎ。
『もし市長さん 議員のおかた、
うすのろ頭を どうしぼっても、
ねずみたいじの 工夫はないか。
それが出来なきゃ こうまんらしい、
公服ぬがせて おいだすばかり。』
こりゃたまらぬと ぱちくり眼、
市長さん議員さん みな青いかお。
なんとかうまい 智慧ふんべつを、
しぼり出さねば こりゃなるまいと、
さっそくひらく 大協議会。
つくえのまわりに しかつめらしく、
眉をひそめて ならんでみたが、
どうにもこうにも そもはじめから、
ないない智慧が 出るはずはない、
ずんずんたつのは 時ばかり。
頭かきかき 市長のいうにゃ、
『でんでんででむしではあるまいし、
智慧だせだせと せめつけられても、
無い智慧出されぬ 面目ござらぬ、
にげこむねずみの 穴ほしや。』[#「。』」は底本では「。」]
ふいに扉口で こっとりことり、
そりゃまたねずみだ 胸どっきどき、
しょぼしょぼ眼に きょろきょろ眼、
客とわかって やれやれ安心、
『おはいんなさい』と 皆大いばり。
入って来たのは こりゃまあなんと、
世にもふしぎな ようすの男。
赤と黄いろの だんだらまだら、
奇妙な形の マントをひいて、
やせてひょろひょろ 背高のっぽ。
顔はつるつる ひげなし男、
髪はふさふさ どす黒い顔、
うす気味わるいは ぎらぎら青い、
針によくにた その細い目と、
いつも笑うよな その口もとだ。
『まるでこの世の 人ではないぞ、
墓の下から 出て来たようだ。』
一人の議員は こうつぶやいた。
男はかまわず ずかずかはいる、
つくえのそばまで もうやって来た。
『なんと皆さん まほうの笛で、
飛ぶ、はう、およぐ、ありとある
鳥けだものを 音にひきよせる、
ふしぎなまだらの 笛ふき男、
これがせっしゃの 名前でござる。』
それから男は いろいろ語る、
笛でたてたる 功名ばなし。
なるほど黄いろと 赤まんだらの、
領布に下げたる まほうの笛を、
手先でむずむず はや吹きたそう。
感心したよな 議員の顔を、
ながめた男は こうまんらしく、
『どうだね皆さん お困りものの
ねずみはわしが 退治てあげる。
かわりに千円 お礼はもらう。』
男のことばを 皆まできかず、
『なに千円だ そりゃ安いもの…