えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

アトモス
アトモス
作品ID48438
著者原 民喜
文字遣い新字旧仮名
底本 「普及版 原民喜全集第一巻」 芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日
入力者蒋龍
校正者伊藤時也
公開 / 更新2013-04-14 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より


 穏かな海に突き出してゐる丘の一角で、一人の人間が勝手な瞑想をしてゐた。恰度彼が視てゐる海の色は秋晴れの空と和して散漫な眺めではあったが、それは肩に暖かい日光が降り注ぐためでもあった。彼は芝生の上に落ちてゐる自分の影法師を眺めて、何か微妙な苦悩を貪ってゐた。そこには何か解きあかしたい一つの感覚があった。塩分を含んだあたりの空気を彼は吸っては吐き、吐いては吸った。そのうちに彼は不図無意味に近くかう口遊んだ。
 ――時間とは温度のことか。

 それから大分後のことではあるが、彼は温度の相違に依って動く永久に停まらない時計が既に発明されてゐるのを識って急に変な気持がした。そしてその機械が自分より偉大な感覚を持たされてゐるのを意ふと、一そう変な気がした。



えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko