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四月五日
しがついつか
作品ID48461
著者原 民喜
文字遣い新字旧仮名
底本 「普及版 原民喜全集第一巻」 芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日
入力者蒋龍
校正者小林繁雄
公開 / 更新2009-08-25 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 四月五日 山村家から招ばれたので昼から出掛ける。山村家の裏庭には桜が咲いてゐる。縁側にアネモネの鉢が並べてある。静かな家だ。髪の長いよく肥えた人が庭さきの日向に籐椅子を出して、それに腰をかける。
「始めて髪をハイカラにしようと思ふのだからいいやうにしてくれ」とのことだ。何しろよく伸びたものだ、どこかこの人は弱々しいから、もしかすると病気上りかも知れない。その人の髪に鋏を入れて居ると、弟らしい人が縁側に出て来る。兄が髪を刈るのを珍しがって見物だらう。やがて適宜に鋏を入れて顔剃りを了へると、一休みする。弟の方も大分伸びてるので五分刈りにしてくれとのことである。で、早速とりかかる。この人は自分より、三つ四つ年下らしく見える。何だらう、今十五か六だらうと、バリカンを動かしながら考へる。散髪が了って、洗面所で髪を洗ってから、
「顔を剃りませうか。」と訊ねる。すると困ったやうな様子で、
「まだ是迄剃らなかったのですが……」
 自分はその返事に一寸興味を感じたので、
「では剃ってみませうか。」
「さうしてもらひませうか。」
 自分は到頭その少年の頬に剃刀をあてた。頬に剃刀があたる度にびくびくしながら何だかこれから生れ変らうとでもしてるやうな、可憐な身構へが自分にとって親しみを感じさせた。



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