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丹那トンネル開通祝ひ
たんなトンネルかいつういわい |
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作品ID | 48471 |
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著者 | 原 民喜 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「普及版 原民喜全集第一巻」 芳賀書店 1966(昭和41)年2月15日 |
入力者 | 蒋龍 |
校正者 | 伊藤時也 |
公開 / 更新 | 2013-04-20 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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頼太は四十歳の独身の独眼の発明家だったが、まだ汽車へ乗ったことがなかった。その癖十何年も前から丹那トンネルには興味を持ってゐた。いよいよトンネルが成功しかかった頃には、彼の発明まで成功し出すのではないかと考へた。山奥で二十年間、何とも云へない不思議な機械を考案しながら、世の中からまるで奇妙な道楽者扱ひにされてゐた頼太のことだ、トンネルが成功した時には誰よりも一番に喜んだ。
新聞によれば今日が開通祝ひだと云ふ。頼太は汽車に敬意を表すべく七里の山路を駅まで歩いた。すると汽車と云ふ奴はどうももともと頼太には親しめなかったが、今日に限ってまあ大目に見ることが出来た。そこの駅を生意気さうにそっぽむいて行く急行を見送ると、あれがやがて丹那トンネル潜るのかと思ふと少し謀叛心が生じた。自分だって一度は汽車に乗ってやらう、さう決心すると次の次の駅まで切符を買った。そして始めて汽車に乗ったのである。何と乗ると乗らないとは相違してゐたことか。頼太は次の次の駅で降りると、早速一軒の旗亭へ入った。そこの女をとらへて頻りに頼太は丹那トンネルの自慢をした。