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常磐の山水
じょうばんのさんすい
作品ID48502
著者大町 桂月
文字遣い旧字旧仮名
底本 「桂月全集 第二卷 紀行一」 興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年7月9日
入力者H.YAM
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2009-02-02 / 2014-09-21
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

        一 利根川

千住の名物、鮒の雀燒をさかなに、車中に微醉を買ふ。帝釋まうでは金町より人車鐵道に、成田まうでは我孫子より汽車に乘り換へしが、我が行く先きは奧州仙臺、小利根を過ぎ、また大利根を過ぐ。このあたりは、さまでの大小なし。風致もほゞ相似たり。されど余はむしろ小利根河畔の[#「小利根河畔の」は底本では「小根利河畔の」]松戸よりも、大利根河畔の取手を取る。水に枕むの紅樓、醉を買ふに足るべし。古城址の丘、遙に富士を望む。極目蕭散にして快濶也。

        二 筑波山

東京を出でてより石岡あたりまでは、幾んど絶えず左に筑波山を見る。土浦より凡そ五里、山麓まで車を通ず。山腹、筑波祠前に筑波町の市街あり。なにがし宿屋の二嬌、何人か銅雀臺にとざしたりけむ。左右二峯、女峯に奇岩多し。いつもながら辨慶の、引合ひに出さるゝこそ氣の毒なれ。戀ぞつもりて淵となりぬるみなの川は、男峯より出づ。

        三 霞ヶ浦

土浦もしくは高濱より汽船に乘りて、霞ヶ浦を横斷するを得べし。浮島に風光を賞し、潮來出島にあやめを看、鹿島、香取、息栖の三祠に詣で、大利根川の下流に浮んで銚子に下る船中、富士迎へ、筑波送る。いかに心ゆく舟路ぞや。

        四 水戸

義公を祀れる常磐祠は第一公園に、弘道館は第二公園に在り。二園共に梅多し。殊に第一園は、岡山の後樂園、金澤の兼六公園と共に、日本三公園と稱せらる。一帶の丘上、當年の好文亭なほ在り。梅樹千章、雪裡今に春を占む。千波湖の一半は田となりたれど、丘下は一大明鏡を開く。此地、前に義公あり、後に烈公、東湖ありて、大義を明かにしたるも、豪傑の士、黨爭に斃れて、折角の維新前後には、蕭條として人物なく、たゞ風光徒らに舊に依りて美也。

        五 大洗

水戸に遊びたるついでに、請ふ君、水戸市の北端、杉山より川蒸氣に乘りて、水路三里、那珂川を下りて、大洗に遊べ。大洗祠前、海水浴旅館、波に俯す。子の日原の喬松、その數千株なるを知らず。磯節に『松が見えます』とあるものは即ち是れ也。欄によりて明月に酌めば、夜凉座に迸り、漁歌遙に相答ふ。場所柄の磯節聞かむとて、校書を聘すれば、都の落武者なるに、いと口惜し。

        六 西山

請ふ君、なほ急がずば、水戸より太田鐵道に乘換へて、太田に着し、そこより人力車に乘り、桃源橋を過ぎて、西山の舊草盧を訪へ。四方の小丘、數百年來の老樹しげり、古き池には、蓮生ひたり。これ義公が老を養ひし處、義公の居間と侍臣の謁見する室との間に閾を設けざるは、義公の心の存する所を見るべし。その庵、天保年間に燒けたれども、規模用材等悉く舊によりて再築せりとかや。さすがは烈公也。

        七 勿來關

關本にて汽車を下り、平潟市街を過ぎて、八幡山より平潟灣を見下せば、眺望亦佳なる哉。…

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