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花模様女剣戟
はなもようおんなけんげき
作品ID48572
著者小野 佐世男
文字遣い新字新仮名
底本 「猿々合戦」 要書房
1953(昭和28)年9月15日
入力者鈴木厚司
校正者伊藤時也
公開 / 更新2010-03-03 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

       1

 ドレスの流行のように、映画も演劇も春の虹のように刻々と流行が変って行く。近頃は花が開いたように果然! 女剣戟流行時代と化して、日本全国津々浦々、劇団が乗り込んで来ると、絵看板は女だてらにあられもない、銀蛇の日本刀を颯爽とひらめかし、荒くれ男をバッタバッタとなぎたおす眼もあやなる極彩色にぬりつぶされて行く。
「いやもう驚くほかはありません。この三、四年圧倒的に人気のあったレビュー、ストリップが一剣ひらめく女剣戟に、すっかりあおられて、これこの通り、女剣戟さえかければ、千客万来客止めというしまつ、いやはやおかげでこちらはホクホクでごわす」
 と興行主は大嬉び、全国で女剣戟団は二百組も都会から都会へ東京近郊だけでも十五、六組あるという。家元格の不二洋子は本年三十九歳、フレッシュなお若いところでは筑波澄子劇団の座頭は花もはじらう十八歳。
 そこで編集部のラキ子さんから
「モシモシ、小野の旦那ですか、こちらはラキ子です。すごいニュースなのよ、浅草のひょうたん池の端で女一人に男十三人と果合いがあるんですって」
「ほんとですか」
「ほんとよ! 今日の午後三時」
「あの六区の池はいま権利あらそいで問題となっている、それだなア」
「なんだか知らないけれどすごいニュースよ。ではお待ちしているわよ、サヨナラ」
 オホッ、すごいスリルだぞと浅草は六区のひょうたん池の端に飛んでいったら、喧嘩どころか、馬鹿に静かで、ただ見世物見物の客でにぎわっているだけ、
「オホホ、来たわね」
「こら、ラキ子、うそつき」
「うそじゃないわ、ソーラ、そこのロック座で筑波澄子劇団が、振袖姿で荒くれ男十三人と、いま流行の女剣戟をやっているじゃない?」
「チェッー、 一ぱいくわされた」

       2

 劇場内は満員で立錐のよちもない。
「マア! すごい入りね」
「だいじょうぶかいラキ子ちゃん、日本刀でバッタバッタと斬りまくるんだぜ。脳貧血を起してぶったおれたりしちゃ僕いやだぜ」
「へいちゃらよ、こう見えても江戸ッ子よ、松竹少女歌劇の川路龍子や小月冴子のお小姓姿で刀をぬくとこも見たことあるわよ」
「S・K・Dのようななまやさしいもんじゃないよ、まかりまちがえれば、プッツリ頬ぺたにささっちまうんだから」
 ギュウギュウと扉にはみ出している観客のお臀をおしくらしてやっと舞台の見えるところにはさまるとラキ子、
「マア! わたしどうしましょう」
「ホーラもうはじまった。いくじなしだなアー」
「ちがうのよ、見廻したところ男ばっかりよ、女はあたし一人きりよ。パチンコの十八歳未満はいけないと同じように、女剣戟は女性が見物しちゃいけないのじゃない」
「そんなことあるもんか、入口に女性は御遠慮下さいなんて書いてないよ」
「ソーオ」
「でも男性としてはあんまり見てもらいたくないね、ただでさえアプレ娘は…

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