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いれふだ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「菊池寛 短篇と戯曲」 文芸春秋
1988(昭和63)年3月25日
入力者真先芳秋
校正者大野晋
公開 / 更新1999-12-02 / 2014-09-17
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

人物
 国定忠治
 稲荷の九郎助
 板割の浅太郎
 島村の嘉助
 松井田の喜蔵
 玉村の弥助
 並河の才助
 河童の吉蔵
 闇雲の牛松
 釈迦の十蔵
 その他三名
時所
 上州より信州へかかる山中。天保初年の秋。
情景
秋の日の早暁、小松のはえた山腹。地には小笹がしげっている、日の出前、雲のない西の空に赤城山がほのかに見える。幕が開くと、才助と浅太郎とが出てくる。二人ともうす汚れた袷の裾をからげ、脚絆をはき、わらじをつけている。めいめい腰に一本の長脇差をさしている。浅太郎の方は、割れかかった鞘を縄で括っている。二人が舞台の中央にかかった時、後ろから呼ぶ声が聞える。

呼ぶ声 おうい、浅兄い、待てえっ。
浅太郎 おうい、何じゃい。
呼ぶ声 おうい、おうい。浅兄い。
浅太郎 おうい、何じゃい。
呼ぶ声 少し足を止めてくれ。あんまり離れるな。
浅太郎 ようし、分かったぞ、待っているぞ。(そばを振り向いて、才助に) おい才助、一休みしようじゃねえか。
才助 大丈夫かなあ、ここいらで足を止めていて。
浅太郎 大丈夫だとも。木戸の関を破ったのが、昨夜の五つ頃だ。あれから歩き通したもの。もうかれこれ十里近くも突っ走ってらあ。
才助 みんなよく足がつづいたものだ。
浅太郎 俺たちは、これぐらいのことではびくともしねえが、九郎助や牛松などの年寄は、あれでいい加減へこたれていらな。
才助 だがよく辛抱してついて来たなあ。
浅太郎 常日頃口幅ったいことをいっている連中だ。ついて来ずにはいられめえじゃねえか。
(二人が話している間、九郎助と弥助、並んで出て来る。九郎助は五十に近き老人、弥助は四十前後)
才助 (九郎助に)やあ、稲荷の兄い、足は大丈夫かい。
九郎助 何を世迷言をいいやがる。こう見えたって若い時は、賭場が立つと聞いた時は、十里二十里の夜道は平気で歩いたものだ。いくら年が寄っても、足腰だけはお前たちにひけは取らねえや。
浅太郎 兄い、あんまりそうでもなさそうじゃねえか。榛名の山越えじゃ、少々参っていたようだぜ。
九郎助 何をいってやがらあ。それあお前たちのことだろう。この頃の若いやつらはまだ修業が足りねえや。俺ら若い時にゃ、忠次の兄いと一緒に、信州から甲州へ旅人で、賭場から賭場をかせぎ回ったもんだ。その頃にあ、日に十里や二十里は朝飯前だったよ。
弥助 そうだったなあ、稲荷の兄いの若い時は豪勢なもんだった。今の忠次の親分だって、ばくち打の式作法はまあお前に教わったようなものだな。
浅太郎 ふうん。そうかなあ。式作法は稲荷の兄いに教わったかも知れねえが、あの度胸骨と腕っ節は、まさか教わりゃしねえだろうねえ。
九郎助 (ちょっと色をかえて)何だと、おつなことをいうなよ。
浅太郎 何にもおつなことはいいやしねえ。よくお前さんは昔は昔はというが、いくらいったって昔は昔さ。昔は親分よ…

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