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猫征伐
ねこせいばつ
作品ID48681
著者大町 桂月
文字遣い旧字旧仮名
底本 「桂月全集 第一卷 美文韻文」 興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年5月28日
入力者H.YAM
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2009-02-05 / 2014-09-21
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

鷄の親鳥、ひなどり、合せて、六十羽ばかり飼ひけるが、一匹の、のら猫來りて、ひよつこを奪ひ去ること、前後、十五六羽に及べり。是に於て、わが家に、一の波瀾起る。その猫を殺さむとは、血氣盛りの甥の意見也。猫も憎けれど、祟るもの也。どうぞ殺して呉れるなとは、母、姉、妻などの意見也。なほ露國が滿洲を占領せしを見ても、清國、韓國などが何等の手出しをも爲す能はざりしが如し。甥、余の意見を問ふ。余曰く、害を爲すものは殺しても可也。されど、女の連中が神經をなやますも、可愛想なれば、殺すことを女に知らすなと。
 一夜、甥、盥伏せを設けけるに、猫、果して術中に陷りたり。甥之を蚊帳につゝみて、遠方にもちゆきて、棄てて歸らむとす。母、以爲らく、或ひは途にて殺すことあらむとて、監督として、下女をして共にゆかしめたり。かくて棄てて歸りしが、翌朝、その猫は、直ぐに我庭にあらはれ來れり。勞して功なし。われ甥をあざけりて曰く、正直も事に因る也。何ぞ下女に言ひふくめて、猫を殺して來らざりしぞと。
 一夜、甥、余に、うらの竹藪に來て見よといふ。共に行けば、こぼてといふものを拵へたり。こぼては、林中にて鳥をとる一種のしかけ也。甥喜んで曰く、今夜必ずこれにて猫を殺さむと。余曰く、朝、一家の人の未だ起きざる前に來り見よ。猫かゝりて死し居らば、直ちに埋めて、人に知らするなと。翌朝、甥よりさきに目覺めて、往いて見れば、こぼては、そのまゝにて、肴は殘り居らず。猫の奴、狡猾、こぼてにはかゝらざる也。そのまゝ置けば、怪しまれむ。晝間だけ、人に知らさじとて、こぼてをこはしたり。その夜、甥他出す。われ藪の中に入りて、また、こぼてをとり直し、新に工夫を加へて、今夜は、必ずかゝらむと思へり。度々藪の中へ往來するを見て、家人は怪しむ樣子なりしも、こぼてを作るとは、知らざりしやう也。翌朝ゆきて見しに、肴は取られて、猫はかゝり居らず。あゝ、こぼての計略は猫には役立たざる也。
 出入する古本屋あり。余の留守の日、來りて、この事をきゝて、箱おとしを設く。半日かゝりて、出來上りて、夕方、甥、之を藪の中にもちゆきけるに、猫果してかゝる。箱のまゝ、うらの川へもちゆかむとせしに、猫は、箱をやぶりて、とび出せり。箱をつくろひて、待ちけるに、猫また來りてかゝる。今度は、前のしくじりに懲りて、箱の中に殺して、然る後に、之を棄てにゆかむとて、無謀にも、猫に石油をかけて、燒き殺さむとす。猫は、箱の中にて、七轉八倒す。この時、姉は裏口の農家より小兒負うて歸り來り、表の口よりも客來たる。甥あわてゝ、猫に水をかけて、火を消す。されど、おそし。猫をころさんとせしこと、あらはれて、甥は母、姉の前に、いたく叱られたり。その來りし客は、家人が加持祈祷など頼む老婆也。余は、宗教を信ずるなら、もつと氣の利いたものを信ぜよと思へど、鰯の頭も信心、安心が得らるゝなら、必…

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