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ペチヨリンとゲザ
ペチヨリンとゲザ
作品ID48992
著者田山 花袋 / 田山 録弥
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 花袋全集 第二十四巻」 臨川書店
1995(平成7)年4月10日
初出「中央文学 第一年第二号」1917(大正6)年1月1日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者hitsuji
公開 / 更新2021-10-03 / 2021-09-27
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 鴎外漁史の『しがらみ草紙』は、当年の文学書生であつた私達に取つては、非常に利益の多いものだつた。明治の文壇は、その大半を、この『しがらみ草紙』によつて覚醒させられたと言つても好いと私は思ふ。
 ドイツを中心にして、ロシア、フランス、スペイン、ベルジユーム、オーストリア・ハンガリイ、諾威、丁抹、さういふ各国の文学がそこに移植せられた。鴎外氏は、医者の方でも医者の医者ださうだが、文学でも文学者の文学者といふ形があつた。
 だから、其時分、もう世に聞えた知名の作家でも、皆な内所では、さうした鴎外氏の飜訳を読んだ。そして知りもしない通などを振り廻した。柳浪、水蔭、眉山、皆なさうだ。或は紅葉あたりでもさうであつたかも知れない。それより一段年の若い人達、鏡花、風葉などゝいふ人達は無論のことである。
 クライストの『悪因縁』『地震』あれは始め『国民之友』に出た。丁度二葉亭の『あひびき』がその四五年前に同じ雑誌に出たやうに――。それからハツクレンデルの『ふた夜』は、読売新聞に出た。鴎外氏は健筆で、社からその原稿を取りに行くと、『待つてゐたまへ、今やつてやるから』かう言つて、一時間もかゝらずに飜訳してやつたといふことであつた。
 しかし、『水沫集』『かげ草』の中にある飜訳の中では、オシユツプ・シユビンの『埋木』と、レルモントフの『浴泉記』及『ぬけうり』とが当時最も文壇を動かした。『埋木』は殊に作家達に護符のやうにして大騒ぎをされた。それにつゞいて、アンデルセンの『即興詩人』、これも作家達は皆愛読した。
 レルモントフ――ロシアのバイロンと言はれた詩人で且つ小説家のあの名高い『現代の英雄』ペチヨリンが、小金井喜美子女史のやうなあゝした廻りくどい古文風の文章で訳せられたことを考へると不思議に堪へない。しかし雅俗折衷にしようか、言文一致にしようかと作者が小説を書くにすら皆迷つてゐた時代だから仕方がない。
『現代の英雄』は年若い作者が、そのため、その作中に使用したモデルのために、決闘を申込まれて、それで撃たれて死んだほどの作であるだけに、非常にすぐれた面白いものである。当時も非常に世間にセンセイシヨンを起した作である。この作は章を四つに分けてある。初めが『ベラ』次ぎが、『タマン』(ぬけうり)それから主人公の名の章があつて、最後に、『浴泉記』が置かれてある。『浴泉記』が作中主人公の遺稿のやうになつてゐる。
 そしてこの一つ/\がそれ/″\に短篇を成してゐて、それを第三章で、しだいに結び附けるやうになつてゐる。『ベラ』はまだ飜訳されたのを聞かないが、これも非常に面白かつたやうに覚えてゐる。しかし、全体がさういふ構図で、面白い独特の組立を成してゐるのであるから、『浴泉記』と『ぬけうり』の飜訳を見たゞけでは、作全体の空気も分らないし、作者の作に対する位置もわからない。第三章で、作者はすつか…

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