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![]() まんりょう |
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作品ID | 4905 |
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著者 | 薄田 泣菫 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「花の名随筆1 一月の花」 作品社 1998(平成10)年11月30日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2004-08-08 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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夕方ふと見ると、植込の湿つぼい木かげで、真赤なまんりやうの実が、かすかに揺れてゐる。寒い冬を越し、年を越しても、まだ落ちないでゐるのだ。
小鳥の眼のやうな、つぶらな赤い実が揺れ、厚ぼつたい葉が揺れ、茎が揺れ、そしてまた私の心が微かに揺れてゐる……
謙遜な小さきまんりやうの実よ。お前が夢にもこの夕ぐれ時の天鵞絨のやうに静かな、その手触りのつめたさをかき乱さうなどと、大それた望みをもつものでないことは判つてゐる。いや、お前の立つてゐるその木かげの湿つぽい空気を、自分のものにしようとも思ふものでないことは、よく私が知つてゐる。
お前はただ実の赤さをよろこび、実の重みを楽しんでゐるに過ぎない。お前は夕ぐれ時の木蔭に、小さな紅提灯をともして、一人でおもしろがつてゐる子供なのだ。
持つて生れたいささかの生命をいたはり、その日その日を寂しく遊んで来たまんりやうよ。
またしても風もないのに、お前の小さな紅提灯が揺れ、そしてまた私の心が揺れる。