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談片
だんぺん
作品ID49081
著者田山 花袋 / 田山 録弥
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 花袋全集 第二十七巻」 臨川書店
1995(平成7)年7月10日
入力者きゅうり
校正者岡村和彦
公開 / 更新2020-03-10 / 2020-02-21
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 さうですね、避暑についての話と言つても、別に面白いこともありませんね。まア暑さを避けるのなら、何と言つても、標高の大きい山岳地方に行くに限ると思ひますね。千米突以上の山の上にゐれば、いつだつて暑いなんていふ気はしませんからね。
 しかし、余り世離れては、避暑といふ目的に副はなくなるかも知れませんね。矢張、都会の人達が大勢行くやうなところでなくては面白くないんでせうからね。涼しくさへあれば好いといふんではないでせうからね。軽井沢や日光あたりが普通に持て囃される訳ですね。
 しかし、段々新しい避暑地を開くことは必要だと思ひますね。今では、あの信越の境にある野尻湖なども非常に好いところになつたツて言ふぢやありませんか。何しろ、あそこは好い高原ですからね。
 日光の湯本の奥から菅沼、笈沼を経て、上州の尾瀬沼に行く間なども、夏は涼しいところだと思ひますね。あそこなども今に屹度開けるだらうと思ひます。上越線の汽車が出来た暁には、決して今までのやうな少数の専門家にばかり占領されてはゐないだらうと思ひます。あそこなら蚊もゐないし、暑さも八十度以上にはのぼらないし、渓流も、湖水も、温泉もすべて揃つてゐますからね。
 上州の吾妻の渓谷から草津を経て、白根、万座、更に渋峠を越して信州に出る間も段々避暑地として目をつけられて来てゐるやうです。浅間の裏のひろい高原にも此頃では大分別荘らしいものが出来たといふ話ですが、あそこは少し樹木が乏しくはありませんか、それから八ヶ岳の此方の松原湖附近も、此頃では大分人の口にのぼるやうになりましたね。あそこも静かな涼しい好いところですね。あれから本沢温泉に行つて、八ヶ岳の向うの諏訪の山裏に行くのも面白いですね。富士見高原は設備はまだ大して好いとはいへないけれども、あそこも夏知らずです。色の濃い美しい桔梗の花が到るところに咲いてゐます。
 日光火山群の前衛を成してゐる山の中にも避暑地に好いところがあります。古峰ヶ原あたりもそのひとつです。那須野の黒羽の向うにある雲巌寺なども世の塵の至らない別天地だと思ひます。
 山が面倒なら、北へ向つて旅行するのも、避暑の一法です。北海道あたりへ行けば、何処でも涼しいです。蚊も多くをりません。樺太旅行なども、夏の旅行としては好いでせう。東北地方では、金華山、鮎川、あすこいらもわるくありません。一の関の先きの須川岳、あの山の上の温泉あたりに行けば七十度を越ゆることは滅多にないでせう。
 裏日本では、羽前の三瀬から越後の村上あたりまで出て来る海岸路が涼しいところです。途中に温海といふ温泉があります。小塩原と言つたやうなところです。瀬波あたりも好いところです。
 鯨波は少し雑沓しすぎる。あそこよりも設備はないが、親不知あたりの方が、山も大きいし海も怒濤に富んでゐて、感じが好い。若狭の四湖のひとつである久々子湖の海岸あたり…

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