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贋物
がんぶつ
作品ID4911
著者薄田 泣菫
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆 別巻9 骨董」 作品社
1991(平成3)年11月25日
入力者門田裕志
校正者高柳典子
公開 / 更新2005-05-19 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 村井吉兵衛が伊達家の入札で幾万円とかの骨董物を買込んだといふ噂を伝へ聞いた男が、
「幾ら名器だつて何万円は高過ぎよう。それにそんな物を唯一つ買つたところで、他の持合せと調和が出来なからうぢやないか。」
といふと、吉兵衛は女と金の事しか考へた事のない頭を、勿体ぶつて一寸掉つてみせた。そして一言一句が五十銭づつの値段でもするやうに、出し惜みをするらしく緩りした調子で、
「なに高い事は無いさ、幾万円払つた骨董が宅の土蔵にしまひ込んであるとなると、外に沢山あるがらくた道具までが、そのお蔭で万更な物ぢや無からうといふ[#「いふ」は底本では「いう」]ので、自然値が出て来ようといふものぢやないか。」
と言つて笑つたといふ談話だ。
 今の富豪が高い金を惜しまないで骨董品を集めるなかには、かうして狡い考へをするのが少くない。唯骨董品ばかりでは無い。一人娘に華族の次男を聟養子にするなぞもそれだが、多くの場合に骨董に贋物が多いやうに、聟養子にやくざ者が多いのはよくしたものだ。
 京都でさる知名の男が、自分の書斎を新築して立派に出来上つたが、さてその書斎の出来栄に調和するだけの額や軸物の持合せが少しも無い。買ひ集めるとなると、大枚の金が要る事だし、寧そ贋物で辛抱したら、格安に出来上るだらうと、懸額から、軸物、屏風、床の置物まで悉皆贋物で取揃へて、書斎の名まで贋物堂と名づけて納まつてゐた。
 面白いのは、そこの主人が軸物よりも屏風よりも、もつと甚い贋物である事だ。――京都の画家が贋物を拵へる事が巧いやうに、京都の女は贋物を産む事が上手だ。孰れにしても立派な腕前である。



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