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其中日記
ごちゅうにっき |
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作品ID | 49258 |
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副題 | 09 (九) 09 (く) |
著者 | 種田 山頭火 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「山頭火全集 第七巻」 春陽堂書店 1987(昭和62)年5月25日 |
入力者 | 小林繁雄 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2009-11-15 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 108 ページ(500字/頁で計算) |
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昭和十一年(句稿別冊)
七月二十二日 曇、晴、混沌として。
広島の酔を乗せて、朝の五時前に小郡へ着いた。
恥知らずめ! 不良老人め!
お土産の酒三升は重かつたが、酒だから苦にはならなかつた、よろ/\して帰庵した。
八ヶ月ぶりだつた、草だらけ、埃だらけ、黴だらけだつた、その中にころげこんで、睡りつゞけた。
七月廿三日 曇。
夜も昼もこん/\睡りつゞけてゐたが、夕方ふつと眼覚めて街へ出かけた。……
雨、風、泥酔、自棄。
天地も荒れたが私も荒れた。……
とう/\動けなくなつて、I屋に泊つた。
七月廿四日 五日 六日
何ともいへない三日間だつた、転々してゐるうちに明けたり暮れたりした。
病める樹明君を見舞ふことも出来なかつた、あゝすまない、すみません。
七月廿七日 晴。
暴風一過、けろりと凪いだ。……
身心すぐれない、罰だ、当然すぎる当然だ。
黎々火君来訪、ありがたかつた(心中恥づかしかつた)、おべんたうを貰つてうれしかつた。
身辺整理。
書かなければならない、しかし書きたくない手紙を二つ書いた。
夜は自責の念にせまられて眠れなかつた。
七月廿八日 曇。
元気なし、あたりまへだ、歯痛痔痛同時に起る、あたりまへだ。
身辺整理、整理、整理、整理。
虫の声がしめやかに。
孤独の不自然。
寝床があつて、米があつて、本があつて、そして酒があるならば。――
夜中に眼が覚めて、秋を感じた。
七月廿九日 晴。
ぐつすり寝たので、だいぶ身心こゝろよし。
出頭没頭五十五年の悔だけが残つてゐる。
身のまはり家のまはり、きたない、きたない。
暑苦しい日々夜々。
午後、樹明君に招かれて宿直室へ出かける、久しぶりに、ほんたうに久しぶりだつたが、かなしいかな、彼は飲めない、衰弱した様子が気の毒とも何ともいへない、すまないけれど私だけ飲んだ、駅辨も御馳走だつた。
寝物語がいつまでも尽きなかつた。
孤独は求むべきものではない、求めてはならない、太陽は孤独だといつて威張る人がある、負け惜しみは止したがよい、人間は星屑のやうに在るべきものである。
七月三十日 晴。
早朝帰庵。
今日も身辺整理。
歯痛、樹明君の盲腸と私の歯とはおなじやうなものだ、共に役立たないもののために苦しみ悩まされる。
暑い/\。
久しぶりに落ちついて晩酌、しきりにKの事を考へた。
誰もみんな幸福であれ。
邪気を吐きつくせば邪気なし、この意味で時々泥酔することは悪くない、それは大掃除みたいなものだ。
彼の一生は逃避行の連続ではなかつたか!
七月三十一日 晴。
身心やうやく落ちつく。
久しぶりに味噌汁をこしらへる、うまかつた。
たよりいろ/\、うれしかつた。
山口へ行く、途中理髪する、気分がさつぱりした、バスに乗りおくれてガソリンカーにする、暑い暑い、青い青い、そして涼しい涼しい、愉快愉快。
誰も彼も…