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妖怪報告
ようかいほうこく
作品ID49274
著者井上 円了
文字遣い新字新仮名
底本 「井上円了 妖怪学全集 第6巻」 柏書房
2001(平成13)年6月5日
入力者門田裕志
校正者Juki
公開 / 更新2010-09-25 / 2014-09-21
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 本館にて、心理講究のかたわら妖怪事実を捜索研究し、その結果を館員に報告し、また、その事実を館員より通信せしむるについては、従来の通信中、妖怪、不思議にして解釈を付し難きものを掲載し、一は館員中事実報告の参考となし、一は館員よりこれに対する意見を報知せしめ、妖怪研究の一助となさんとす。よって今後は、ときどき妖怪事実を本誌に記載すべし。
 左の一事実は、明治十九年、余が手に入りたるものにして、静岡県遠州某氏の報知なり(本誌掲載のことは本人に照会せざりしをもって、その姓名を挙げず)。夢想の研究については、参考すべき必要の事実なり。
   ○霊魂は幽明の間に通ずるものか
 予は祖先相つぎ、世々農をもって業とするものなり。父母存在し、一姉あり、さきに他に嫁し、一弟あり、齢七歳にして没す。妻あり一男を産む、成長す。当時家族五人、予や明治十二年以降、某官衙に微官を奉ず。しかして、明治十九年二月二十日、公務を担い、奉職の官衙を去る十里ほど、某官衙に至る。該地に滞留すること八日維時、その月二十八日夜、寝に就く。忽地にして妻、手に提灯を携え、某川のそばに彷徨し、予に告げて曰く、「父、水没す」と。ともに驚然として覚む。とき夜半、なお再び寝眠するに、さらに水没の地名を呼ぶ。夢況また故のごとし。しかして夢破すれば、時辰儀まさに七時になんなんとす。起きて盥嗽し終わり、うたた昨夢の現象を思う。しかれども、予や元来、夢想に感じ、空想を惹起するがごとき情感なく、ことに夢境は某川暴漲せりと覚ゆれども、あたかも天晴朗、降雨の兆しもなし。かつ、はじめ家を去るとき、父平素にたがわず健康なれば、これを煙消霧散に付し、意思のかけらにもかけず。
 その日も前日のごとく、某官衙に出務せり。とき三月一日なり。日課を終え、午後六時ごろ旅亭に帰り浴湯し、まさに晩餐を喫せんとす。旅亭の下婢、左側の障子を開き、手に電報を持ち、予に告げて曰く、「ただ今、君へ電報到着せり」と。予、なにごとの出来せしやと疑いながらただちに披封すれば、なんぞはからん、「父大病につき、ただちに帰宅せよ」と、親戚某より寄するところの電報なり。愕然、大いに憂懼す。しかれども、公事を帯び羈客の身となる。ほしいままに帰省なしがたきをもって、某官衙に生が病気届けを上呈し、倔強の車夫を呼び腕車に乗じ、ただちに旅亭を辞し、時刻を移さずして帰省し、父の病を訪わんとすれば、溘焉としてすでに逝き、また浮き世の人にあらず。もってひとたびは錯愕、もってひとたびは慟哭、情緒乱れて、またなすところを知らず。しかれども、事すでにここに至る、いかんともするあたわず。よって、その卒去の情況を子細に尋問すれば、二月二十八日早朝、父、故人某のもとに訪問せんと、平素のごとく家を出発せしが、途次、某川のそばを通行し、あやまちて蹶倒し、堤脇壇上の杭頭に触れ、いたく前額を打撲しきずつき…

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